5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2024年 刑法
設問(1)
刑法41条が14歳未満の者の責任無能力を規定するのは、14歳未満の者が刑法39条1項にいう心神喪失にあたるとする趣旨によるものではなく、このような年少者については,刑法が目的とする犯罪予防の見地から、処罰を控えることが適切だとする刑事政策的理由によるものである。
設問(2)
間接正犯が正犯として扱われる根拠は、直接正犯と異ならない実行行為性があることにある。
そこで、間接正犯が成立するためには、利用者の利用行為において、①主観的には、他人をあたかも道具のように利用し、自己の意思通りに犯罪を自ら実現する意思が必要であり、②客観的には、利用行為によって被利用者の行為をあたかも道具のように一方的に支配・利用し、実行行為の結果を発生させる現実的危険性を生じさせることが必要である。
そして、12歳の少年は刑事未成年であっても一般的には事理弁識能力を備えているものと考えられる。そうすると、ただ被利用者が刑事未成年というだけでは②の要件は充足されない。そこで、この場合には、利用者と被利用者の関係、利用行為の態様、被利用者の状況、等を総合的に考慮して、②の要件が充足されるといえることが間接正犯の成立に必要な条件となる。
設問(3)
1. Bは甲寺納経所から「他人の財物」たる現金2万円を盗み出すことにより「窃取」しており、故意および不法領得の意思もある。よって上記行為は窃盗罪(刑法(以下、法令名略)235条)の構成要件に該当する。
もっとも、Bは「14歳に満たない者」(41条)であり、刑事未成年だから責任能力がなく上記行為に犯罪は成立し得ない。
2. 次に、XがBに対し上記行為を命じ、現金2万円を盗み出させた行為に窃盗罪の間接正犯が成立しないか問題となる。
XがBを利用した行為に間接正犯が成立するかは、上記の基準で判断する。
⑴本件で、Xは上記行為の後、Bが盗み出した現金2万円を全額受領している。そのため、自分のために犯罪を行っているから、上記行為時において、他人をあたかも道具のように利用し、自己の意思通りに犯罪を自ら実現する意思があったといえる。
⑵また、本件行為時においてBは学校に通っていなかったが、12歳であり一般に分別のつく年齢であったのだから、事理弁識能力があったといえる。
もっとも、XとBは親子関係にあるところ、Bには他に頼ることができる人はいない状況であった。また、XはBが逆らうたびに日常的に暴力を加えており、Bを意のままに従わせていた。そうすると、Bが本件において窃盗の命令を断れば暴力を加えられる可能性が高く、Bはそのことに極度の恐怖心を抱いていたと考えられる。
それに加え、Bの上記窃盗行為は現金を盗むという比較的単純な作業であったため、XがBに命令を出すことによって窃盗罪の構成要件的結果発生の現実的危険性が発生していたといえる。
これらを総合すると、Xは上記のようにBに命令することによって、Bをあたかも道具のように一方的に支配・利用し、実行行為の結果を発生させる現実的危険性を生じさせたといえる。
3. よって、Xには窃盗罪の間接正犯が成立する。
以上