6/16/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2024年 商法
設問1
1. 本件は、甲社の株式を保有する乙社から甲社がその株式を両社合意の上、買い取るものであるから、「株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得する」(会社法156条1項柱書本文)場合、いわゆる自己株式の取得に当たる。そして、本件のように乙社という特定の株主から買い取る場合には、156条1項の株主総会決議事項及び特定の株主から買い取る旨を株主総会特別決議で決議しなければならない(309条2項2号、160条1項、156条1項)。それにもかかわらず、甲社は株主総会特別決議を開かず、その取締役会において、上記自己株式取得を決定しているため、この点に会社法上の問題がある。
2. また、本件のように特定の株主からの自己株式取得の場合には、「特定の株主に自己をも加えたものを同項の株主総会の議案とすること」(160条3項)を請求できる旨を、株主に対し通知しなければならない(同条2項)ところ、甲社はかかる通知も怠っており、この点も会社法上の問題がある。
設問2⑴
1. Xは、甲社の株式を2年前から保有しており、「六箇月…前から引き続き株式を有する株主」(847条1項本文)に当たる。また、Aは甲社の代表取締役であり、「役員等」(847条1項本文)である。よって、Xは株主代表訴訟(847条1項)により甲社に対しAの責任を追及することができる。
2. では、上記の会社法上の問題点を根拠として、甲社に対し本件株式取得に係るAの任務懈怠責任(423条1項)を追及することができるか。
⑴取締役は、法令を遵守する忠実義務を負うところ(355条)、Aは上記のように会社法に違反する自己株式取得をしているため忠実義務に反し、「任務を怠った」と言える。
⑵また、代表取締役である以上自己の行為が会社法に違反しないかを確認する義務はあるため、かかる任務懈怠に関してAに少なくとも過失は認められる。よって、Aの帰責事由が認められる(428条1項反対解釈)。
⑶そして、かかる任務懈怠によって、甲社の株式の第三者機関による鑑定価値は1株あたり1万円であるにも関わらず、1株2万円で取得してしまっているため、取得した株1株あたり差額の1万円高く買い取ってしまっており、甲社に「損害」を生じさせている。
2. 以上より、XはAの任務懈怠責任を追及することができる。
設問2⑵
1. Aは、上述の自己株式取得手続違反を根拠として、甲社を代表して乙社に対し本件株式取得の無効を主張することができるか。
⑴法が会社に厳格な自己株式取得手続規制を課したのは、剰余金の処分に関する株主の利益を守り、株主平等原則を徹底する趣旨であるから、原則として手続違反の自己株式取得効果は無効である。もっとも、無効を主張することが信義則(民法1条2項)に反するなど特段の事情がある場合、または、取引安全の見地から違反の事実に株主が善意の場合には会社は無効主張ができないと考える。
⑵乙社は甲社の株主であるから、本件株式取得に関する株主総会の欠缺を知っており、違反の事実に悪意であった。また、乙社は甲社取締役会に自ら本件株式取得を行うよう働きかけ、株主総会決議の欠缺を知りながら株式を譲渡している以上、株主間の平等を自ら害したものといえる。よって、無効主張が信義則違反に当たる等の特段の事情は存在しない。
2. よって、Aは上記主張をすることができる。
以上