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2023年 民法 千葉大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 民法 千葉大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

千葉大学法科大学院2023年 民法

第1 設問1

1. DE間について

⑴ Eは、Dに対して、不法行為に基づく損害賠償請求(民法(以下、略)717条1項本文)を行うことが考えられる。

ア 「工作物の設置又は保存に瑕疵がある」(同項)とは、工作物がその種類に応じて通常予想される危険に対し、通常備えるべき安全性を欠いている状態をいうと解する。
 これをみるに、「工作物」(同項)たる丙建物の手すりは、Cによる巧妙な手抜き工事が為されており、通常の使用に耐える性能を有していなかった。そのため、同手すりは、通常予想される危険に対し、通常備えるべき安全性を欠いている状態であったといえる。
 したがって、「工作物の設置…に瑕疵がある」といえる。

イ そして、Eは、上記手すりが壊れてバランスを崩し点灯して大怪我を負った結果、寝たきりの状態になっている。よって、上記「瑕疵」によって、Eの身体という権利が侵害されたといえる。

ウ また、上記権利侵害によって、治療費用等の「損害」(同項)が発生したといえる。

エ 加えて、上記権利侵害が発生した2021年5月1日当時、DはAとの間で締結した賃貸借契約(601条)に基づき、丙建物を「占有」(同項)していた。

オ 以上より、上記請求は成立する。

⑵ これに対して、Dは、「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」(同項但書)ことから、上記請求は認められない旨の反論をすることが考えられる。

ア これをみるに、上記手すりの「瑕疵」は、Cによる巧妙な手抜き工事に起因しており、専門家が最新の機器を用いて検査しなければこれを見抜くことは困難であった。そして、通常、自己の賃借している物件に手抜き工事が為されていることを予測することは困難であって、Dが手抜き工事の有無を専門家に依頼して最新の機器を用いて検査する義務までも負っていたとは評価し得ない。そこで、Dが上記検査を行っていなかったことを以て、「損害の発生を防止するのに必要な注意を」しなかったとは評価し得ない。

イ したがって、Dによる上記反論は認められる。

⑶ よって、Eによる上記請求は認められない。

2. AE間について

⑴ Eは、Aに対して、不法行為に基づく損害賠償請求(同項本文)をすることが考えられる。

ア まず、上記1と同様に、Eによる請求は同項本文の要件を充足する。

イ そして、Eが大怪我をした当時、Aは丙建物を「所有」(同行但書)していた。

ウ したがって、Eによる上記請求は成立する。

⑵ これに対して、Aは、上記手すりの「瑕疵」はCによる巧妙な手抜き工事に起因することから、Eの負傷につき、自己に過失はないと反論することが考えられる。しかし、同項但書における所有者の責任は無過失責任であることから、上記反論は成立しない。

⑶ 次に、Aは、上記Eの負傷は、Eが先天的な骨形成不全症を患っていたことにも起因することから、損害賠償の額が減額される(722条2項)旨の反論をすることが考えられる。

ア この点、被害者の素因は、「過失」(同項)ではないことから、同項を直接適用することはできない。もっとも、同項の趣旨は、損害の公平な分担を実現する点にある。そこで、被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときには、同項を類推適用できると解する。

イ これをみるにEは、先天的な骨形成不全症を患っていたところ、このことが上記負傷結果の発生に関与していた。そのため、当該疾患の態様、程度などを考慮すれば、加害者たるAに損害の全部を賠償させることは公平に失すると評価できる。

ウ したがって、同項が類推適用され、賠償額が減額されることになる。

3. BE間について

⑴ Eは、Bに対して、不法行為に基づく損害賠償請求(709条)をすることが考えられる。

ア 建物は、そこに居住する者、そこを訪問する者等の様々な者によって利用される性質を有することから、これらの者の生命、身体又は財産を危険に晒すことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである。そこで、建物の建築に携わる設計者、施工者及び施工管理者等は、建物の建築にあたり、契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するべきである。
 これをみるに、建築会社たるBは、丙建物の建築工事につき、Aとの間で請負契約を締結している。そのため、Bは、丙建物が建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負っていたといえる。それにも拘らず、手抜き工事を防止するための十分な防止措置ないしその有無に対する十分な検査が行われたとの事情はない。そこで、Bは上記義務に反したといえる。したがって、Bには「過失」(同条)が認められる。

イ そして、Eは、上記の通り、手すりが壊れてバランスを崩したことにより、怪我を負っていることから、上記過失「によって」(同条)、身体という「権利」(同条)が侵害されたといえる。

ウ また、Eは、上記権利侵害によって、治療費等の「損害」(同条)を被っている。

エ したがって、上記請求は成立する。

⑵ Bは、Eに上記素因が存することを理由に、損害賠償の減額すべきと反論することが考えられるところ、上記の通り認められる(722条2項類推適用)。

⑶ 以上より、Eによる上記請求は認められる。

4. CE間について

⑴ Eは、Cに対して、不法行為に基づく損害賠償請求(709条)を行うことが考えられる。

ア Cは、丙建物の内装工事を請け負っていたことから、丙建物が建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負っていたといえる。それにも拘らず、手すりの施工につき、手抜き工事を行なったことから、上記注意義務に違反したといえる。
 したがって、Cには「過失」が認められる。

イ 上記の通り、Eは、手すりが壊れたことにより転倒し、上記怪我を負っている。そこで、上記過失「によって」、身体という「権利」が侵害されたといえる。

ウ また、上記の通り、Eは身体という権利が侵害されたことによって、治療費等の「損害」を負ったといえる。

エ よって、上記請求は成立する。

⑵ Cは、Eに上述の素因が存することを理由に、損害賠償の減額すべきと反論することが考えられるところ、上記の通り認められる(722条2項類推適用)。

⑶ 以上より、Eによる上記請求はEの訴因による減額がなされた範囲で認められる。

第2 設問2

1. まず、Dは、Aに対して、修繕義務(606条1項本文)の履行請求をすることが考えられる。

⑴ Dは、2021年3月1日に、Aとの間で丙建物の1階部分及び2階部分を目的物とする賃貸借契約(601条)を締結している。
 したがって、上記請求は成立する。

⑵ これに対して、Aは、上記義務の履行が不能(412条の2第1項)であることから、上記請求は認められない旨の反論をすることが考えられる。

ア 上記賃貸借契約は、賃料を月額30万円、敷金を50万円、契約期間を3年間とするものである。これに対して、丙建物の修繕には、3000万円から4000万円を要するところ、これは上記賃料等に比して非常に高額であり、丙建物の修繕を行うことは金銭的に著しく困難なものといえる。そこで、「債務の履行が…取引上の社会通念に照らして不能である」(412条の2第1項)と評価できる。

イ したがって、Aによる上記反論は認められる。

⑶ よって、上記請求は認められない。

2. 次に、Dは、Aによる賃料支払請求に対して、賃料の減額(611条1項)を主張することが考えられる。

⑴ 上記の通り、AD間には、丙建物を目的物、その利用目的を飲食店の営業とする賃貸借契約が締結されている。

⑵ そして、2021年10月15日から丙建物の1階部分で水漏れが頻繁に発生し、これにより食材と備品の一部に150万円程度の損害が生じている。また上記契約が店舗としての利用を内容とする事情も考慮すれば、丙建物はその「一部が…使用及び収益をすることができなくなった」(同項)と評価することができる。

⑶ そして、水漏れは、賃借人たるDの行動に起因して生じたものではない。そこで、「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」(同項)といえる。

⑷ したがって、Dによる上記主張は認められる。

3. 次にDは、Aに対して、履行不能による損害賠償請求(415条1項本文)をすることが考えられる。

⑴ 上記の通り、丙建物に生じた水漏れにより、食材と備品の一部に150万円程度の損害が生じており、丙建物での飲食店の営業を行うことが困難な状況となっていた。そして、上記の通り、丙建物の修繕義務は履行不能状態に陥っている。
 したがって、DがAに対して丙建物を使用収益させる義務の「履行が不能」(同項本文)になっていたと評価できる。

⑵ 「損害」(同項本文)とは、債務不履行がなければ有していたであろう財産状態と現実の財産状態との差額をいうと解する。
 これをみるに、上記の通り、150万円程度の被害が生じている。加えて、Dの経営する飲食店の10月分の売り上げは、9月分に比して4分の1以下にまで下落し、11月1日から飲食店を休業している。
 したがって、上記150万円程度、売上減少分及び休業による逸失利益に相当する額の「損害」が発生したといえる。

⑶ また、上記150万円程度の被害及び売上減少分については、水漏れが原因で生じている。そのため、上記履行不能「によって」(415条1項本文)生じた損害といえる。 ア 他方で、Aは、Dが新たな物件を探して店舗を移転する等の損害回避減少措置を一切取らなかったことを理由に、休業による営業利益相当分の損害のうち、当該措置をとることが可能となった時期以降のものは「通常生ずべき損害」(416条1項)に含まれないと反論することが考えられる。

イ 文言より、416条1項は相当因果関係の原則を、同条2項はこれの判断基底となる事情について定めていると解する。

ウ これをみるに、Dは、2021年10月15日に発生した水漏れについて、同年11月、Aに対して対処するよう求めているが、水漏れを防止するためには丙建物について一定の工事をやり直さなければならず、その費用が3000万円から4000万円と高額であることを理由に、拒絶されている。そのため、少なくとも修繕を拒絶された時点において、Dの経営する飲食店の営業の再開は、いつ実現できるかわからない実現可能性の乏しいものとなっていたと評価できる。他方で、Dの経営する飲食店の営業は、丙建物以外の場所で行うことができないものとは評価できない。以上の事情に鑑みれば、遅くとも、修繕を拒絶された同月1日の時点においては、Dが何らの損害回避又は減少措置を執ることなく、丙建物の店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害の全てについての賠償をAに請求することは、条理上認められい。

ウ したがって、上記損害は「通常生ずべき損害」にあたらず、履行不能「によって」生じた損害とはいえない。

⑷ よって、Dによる上記請求は、一部認められる。

4. 次にDは、Aに対して、上記賃貸借契約の解除(542条1項柱書)を主張することが考えられる。

⑴ 上記の通り、丙建物は飲食店として利用することができない状態に陥っていた。そのため、丙建物を使用収益させる旨の「債務の一部の履行が不能である」(同項2号)と評価できる。そして、丙建物を目的物とする賃貸借契約では、これを飲食店として利用することが内容とされている。そのため、「残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき」(同号)と評価できる。

⑵ したがって、Dによる解除の「意思表示」(540条1項)により、上記主張は認められる。

5. また、Dは、Aに対して、上記解除と併せて、乙土地を目的物とする賃貸借契約の解除(同項柱書)を主張することが考えられる。

⑴ これに対して、Aは、債務不履行があったのは丙建物を目的物とする賃貸借契約にとどまり、乙土地を目的物とする契約について債務不履行はなく、上記主張は成立しない旨の反論をすることが考えられる。

ア 契約目的を達成することができない場合にまで、債権者を契約の拘束力に服させるべきではない。そこで、同一当事者間の債権債務関係がその形式は2個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、他方の契約上の債務の不履行を理由に、その債権者が法定解除権の行使として併せてもう一方の契約をも解除することができると解する。

イ これをみるに、丙建物を目的物とする賃貸借契約は、これを飲食店の店舗として利用することを目的としている。他方で、乙土地を目的物とする賃貸借契約は、Dの経営する飲食店の店舗に駐車場を併設することができれば売上げが向上するのではないかという意図の下、締結されている。そのため、両契約は飲食店の店舗営業及びこれを円滑に行うという密接に関連したものであり、社会通念上、いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的を達することができないものと評価できる。

⑵ したがって、Dによる上記主張は認められる。

以上

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