7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2021年 刑事訴訟法
第1 小問1
1. ①について
⑴ 本件捜索差押許可状は捜索の場所をXの居宅としているところ、同人宅に宅配された段ボール箱につき捜索を開始している。そこで、捜索差押執行中に宅配された荷物は「捜索すべき場所」(刑事訴訟法(以下、法令名省略)219条1項)に含まれておらず、かかる荷物を捜索することができないのではないかが問題となる。
⑵ 219条1項が捜索差押許可状に「捜索すべき場所」を記載するとしている趣旨は、憲法35条1項の保障する住居の不可侵を保障することにあるところ、捜索実施中に他の場所から捜索すべき場所に持ち込まれ、被処分者が所持・管理するに至った物について捜索を行ったとしても、新たな住居権・管理権の侵害を生じるものではなく、新たに令状を必要とする理由はない。
また、令状の有効期間内(刑事訴訟法規則300条)であれば、いつ捜索に着手してもよいはずなのに、捜索開始時期がたまたま前後したというだけで、捜索場所にある物を捜索できたりできなくなったりするのは不合理である。したがって、捜索差押許可状の執行中に捜索場所に宅配された物にも当該許可状の効力が及ぶと解する。
⑶ したがって、本件においても①の捜索は令状の執行として適法であるといえる。
2. ②について
⑴ まず、捜索差押許可状の効力は、同許可状に示された「場所」「物」「身体」(219条1項)に及ぶところ、本件リュックサックは同許可状に列挙された物のいずれにもあたらないことから、甲方という「場所」に対する捜索差押許可状の効力が、本件リュックサックという「物」に及ぶかが問題となる。
確かに、同項は「場所」と「物」を捜索対象として区別して規定しているから、「場所」に対する捜索差押許可状の効力は当然に「物」に及ぶものではない。しかし、同項が捜索すべき場所の特定を要求した趣旨は、令状裁判官による「正当な理由」(憲法35条1項)の有無の判断の確実性を担保し、その場所に対するプライバシー等を保護する点にあるところ、「場所」内にある「物」に関するプライバシーは、「場所」に関するプライバシーに包摂されているといえる。
そこで、「場所」の住居権者・管理権者が管理支配している物には、「場所」に対する捜索差押許可状の効力が及ぶ。
本件リュックサックは本件捜索差押許可状の執行当時には同令状に「場所」として記載された甲居宅に存在していた物であり、甲居宅の管理権者たる甲が官吏支配している物にあたるから、令状の効力が及んでいるといえる。
⑵ もっとも、X宅から離脱した本件リュックサックを捜索することは「必要な処分」(222条1項本文、111条1項前段)として許容されないのではないか。
捜索・差押が強制処分という権力的作用であることから、実効性の確保・目的達成のために令状の効果として妨害排除措置をとることができる。そこで、「必要な処分」とは、捜索差押の執行の目的を達成するために必要かつ相当な範囲の付随処分のことをいうと考える。さらに、上記必要な処分にあたるとしても、別途令状が必要となるような場合においては、令状の効果が及ばないから違法な捜査にあたることになる。
本件では、Xが大麻取締法違反の被疑事実に基づいてQらが所定の手続を経てX宅の捜索を開始しようと踏み込んだのに対し、Xは激しく抵抗し、持っていたスマートフォンをQの顔面に投げ付けるとともに、Xの手元にあったリュックサックを窓から行動に投げ出し、自身も窓から逃走を図ろうとしていた。とすると、QらはXが逃走してリュックサックの中にあると思料される大麻取締法違反の被疑事実に関連する証拠物の隠滅することを防ぎこれを捜索差押するために、その場所でXの同意なくその中身を調べる必要があった。
一方、QらはXを取り押さえた上でXのリュックサックの中身を調べているにすぎず、Xに対し強度の有形力を行使しているわけではなく、上記捜索の目的を達するために相当なものだった。また、投げ出された場所は公道であり、他人の管理支配権の及ぶような場所ではないことから別途令状が必要となる場合とはいえない。
⑶ よって、②の捜査は「必要な処分」として許される。
3. 小問2
⑴ ③の写真は、Yによる公判期日外での供述に当たることから「公判期日における供述に代」わる「書面」(320条1項)として伝聞証拠にあたるか問題となる。
⑵ 伝聞法則の根拠は、供述がなされる知覚・記憶・表現・叙述の過程において誤りが混入していないかを反対尋問(憲法37条2項)、裁判所による証人の態度等の観察、真実を述べる旨の宣誓(154条)、偽証罪(刑法169条)の告知によって吟味する点にある。とすると、かかる吟味が必要ない場合には、伝聞証拠に当たると考える必要はない。
そこで、伝聞証拠とは公判廷外供述を内容とする供述証拠であり、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題になるものをいう。
⑶ ③の要証事実は、XからYに大麻樹脂を届けたことを立証することをもって、Xの犯人性とXの大麻販売の実行行為の存在を基礎づけることである。その立証過程は、YがXから大麻樹脂を受け取った旨のメッセージを送信していることから、実際にXがYに大麻樹脂を販売した事実を推認するというものである。
そうすると、上記要証事実との関係で、Yの供述の内容たる、YがXから大麻樹脂を受け取ったという事実が真実であるか否かが問題となる。したがって、③の写真は伝聞証拠に当たる。
⑷ なお、写真は、専ら工学的、科学的原理による過程を経て作成される化学的・機械的証拠として非供述証拠であると解されるものの、本件では、写真内でなされているYの供述の内容が問題となる場面であるから、③は伝聞証拠にあたると解するべきである。
以上