7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2021年 民事訴訟法
1. 裁判所の心証によると、「Bが平成10年9月2日に甲土地を売却したのは、Yである。」というXもYも主張していない事実を裁判の基礎にすることになるところ、弁論主義に反しないか問題となる。
2. 弁論主義とは、判決の基礎となる事実と証拠の収集・提出を当事者の権能かつ責任とする建前である。民事訴訟の対象は私法上の権利であり、当事者が任意に処分し得るものである。とすれば、裁判による争訟処理においても、両当事者の自由に任せるべきである。つまり、弁論主義は、実体法上の私的自治の訴訟法的反映であるとみることができる。
上記弁論主義の私的自治の訴訟法的反映という根拠から、裁判所は当事者のいずれかが主張して口頭弁論に現れない限り、ある事実を裁判の基礎とすることができないという命題が導かれ(弁論主義の第1テーゼ)、かかる命題に反する事実認定は許されないことになる。
そして、弁論主義の適用範囲については、弁論主義の機能である当事者意思の尊重及び不意打ち防止と裁判官の自由心証主義(247条)との均衡の観点から、主要事実に限定されると考えるべきである。間接事実・補助事実は主要事実の存否を推認する資料となる点で証拠と同じ働きをするところ、このような間接事実・補助事実にまで弁論主義を適用すると裁判官に不自然な判断を強いることになり不当であるからである。
3. 本件では、裁判所の心証は「Bが平成10年9月2日に甲土地を売却したのは、Yである。」というものである。まず、かかる事実はXの請求においては、XのBが平成10年9月2日にXに売却したという主要事実の主張の認定を妨げる事実であってこれ自体は主要事実ではない。したがって、裁判所はXの請求を棄却する判決を出すことができる。しかし、Yの反訴は、Yの甲土地所有を確認するものであるところ、かかる反訴では、上記裁判所の心証は、主要事実に当たる。したがって、この事実について主張のない本件ではYの反訴を認容することはできない。
4. 以上より、裁判所はXの請求を棄却することはできるが、Yの請求を認容する判決を出すことはできない。
以上