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2023年 商法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 商法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

九州大学法科大学院2023年 商法

設問1(1)

1. Dは、「株式の発行…が法令…に違反する」(会社法(以下、略)210条1号)として、本件新株発行の差止請求(同条柱書)をすることが考えられる。

⑴ 甲社株式には譲渡制限(107条1項1号、108条1項4号)が付されていないことから、「公開会社」(2条5号、201条1項)にあたる。そのため、原則として、取締役会により株式の募集事項の決定を行うことができる(同項、199条2項)。もっとも、本件新株発行に係る払込金額が「特に有利な金額」(199条3項)にあたる場合には、株主総会の特別決議による承認を要する(199条2項、同条3項、201条1項、309条2項5号)ところ、上記発行に係る募集事項については、取締役会による承認を得たにとどまる。そこで、本件新株発行に係る払込金額が「特に有利な金額」にあたるかを検討する。

ア 199条3項の趣旨は、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益調整を実現する点にある。そこで、「特に有利な価格」とは、公正な発行価格よりも特に低い価格をいうと解する。

イ 上場会社における公正な価格は、原則として、発行価格決定直前の株価に接近していることが必要である。ところで、甲社は発行済株式総数を1000株、株主数を4人及び純資産額を10億円程度とする株式会社であることから、上場会社ではない(有価証券上場規程211条)。そして、非上場株式に係る株価を算定する際には、市場価格を参考にすることができない。そこで、非上場株式における公正な発行価格の判断基準が問題となる。

(ア)非上場会社の株価の算定については、様々な評価手法が存在しているところ、どのような場合にどの評価手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されているわけではない。また、個々の評価手法においても、ある程度の幅のある判断要素が含まれていることが少なくない。このような事情に鑑みれば、取締役会が、新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定したにも拘らず、裁判所が、事後的に改めて株価の算定を行った上、その算定結果と現実の発行価額とを比較して「特に有利な価額」にあたるかを判断することは、取締役等の予測可能性を害することとなり、妥当でない。そこで、当該算定方法によって発行価額が決定されていた場合には、当該価額は、特段の事情のない限り、「特に有利な価額」にあたらないと解する。

(イ)本件新株発行に係る払込金額は、1株あたり50万円であるところ、当該払込金額が如何なる算定方法で発行価額を決定したかは定かでない。そこで、一応合理的な算定方法によってこれを決定したと認められない場合(以下、本件場合とする。)には、上記払込金額は「特に有利な価額」にあたる。

ウ したがって、本件場合には「株式の発行…が法令…に違反する」といえる。

⑵ 本件場合において、本件新株発行が為されれば、既存株主の有する株式の価値が希釈化されるという「不利益」(210条柱書)が生じる。

1. したがって、上記差止請求は認められる。なお、上記差止訴訟が確定するまでの間に、本件株式発行の効力が生じてしまうおそれがあることから、上記差止訴訟を本案とする仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てるべきである。

設問1(2)

1. Dは、本件新株発行無効確認訴訟(828条1項)を提起することが考えられる。

⑴ まず、Dは、甲社株式400株を有する「株主」(同条2項2号)である。
 次に、本件新株発行の効力はX年9月20日に生じていることから、同年10月1日現在は、「株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内」(同条1項2号)といえる。
 したがって、上記訴訟は訴訟要件を充足する。

⑵ 上記の通り、本件場合には、本件新株発行は株主総会の特別決議(199条2項、同条3項、201条1項、309条2項5号)を欠くものとして違法となる。ところで、828条1項は、無効原因について何ら規定していない。そこで、上記違法が無効事由にあたるかを検討する。

ア 商取引の安全を図る観点から、無効原因は、重大な法令又は定款違反がある場合に限定されると解する。そして、新株発行は、会社の業務執行に準ずるものであり、株主総会の特別決議は取締役会の権限行使についての内部的要件にすぎない。加えて、没個性的な株主によって構成される公開会社のうち、上場会社においては、既存株主の持株比率に対する関心を保護する必要性は低い。他方で、上場会社の株式は流通性が高いことから、取引の安全を図る必要性が高い。そこで、上場株式については、株主総会の特別決議を経ていない有利発行も有効であると解すべきである。これに対して、閉鎖会社における株主は、必ずしも没個性的とはいえず、従って持株比率に対する関心をある程度保護する必要性が認められる。他方で、同社の株式の流通性は低く、取引の安全を図る必要性は低い。そこで、公開会社であっても、閉鎖会社については、当該法令違反を重大なものと評価すべきであり、無効事由になると解する。

イ 甲社の株主総会決議は4人と少なく、D以外は親族の関係であり、閉鎖会社である。

ウ したがって、上記法令違反は無効事由になる。

2. よって、上記確認訴訟は認容されるべきである。

設問2(1)

1. Dは、後述の差止請求を行うために、本件合併契約の承認(795条1項)をした臨時株主総会の取消訴訟(831条1項柱書)をすることが考えられる。

⑴ まず、上記の通り、Dは「株主」(同項柱書)にあたる。
 次に、上記臨時株主総会はX+5年4月5日に行われていることから、同年5月10日以前である現在は「決議の日から三箇月以内」(同項柱書)といえる。
 したがって、上記訴えは訴訟要件を充足する。

⑵ 上記臨時株主総会においては、乙社を代表してEが議決権を行使しているところ、Eは「特別…利害関係」(同項3号)にあたり、取消事由が認められないか。

ア 同号の趣旨は、少数株主の犠牲の下、多数株主が利益を得ることを防止する点にある。そこで、「特別…利害関係」人とは、当該議案につき、他の株主と共通しない利益を獲得し又は義務を免れる者をいうと解する。
 Eは、本件合併における消滅会社たる丙社の発行済株式400株のうち200株を有する。そのため、本件合併によって、合併対価を取得するという他の株主とは共通しない利益を獲得することとなる。
 したがって、Eは、「特別…利害関係」人にあたる。

ウ 本件合併契約当時、甲社の業績は順調であったのに対し、丙社は債務超過状態に陥っており、その株式の価値は零に等しい状態であった。それにも拘らず、同契約に係る合併対価は、丙社株式1株あたり甲社株式を1株であったことから、合併対価が著しく不相当といえる。このような決議内容は、反対株主たるDの多大な犠牲の下、多数株主であるEが利益を得るものであって、許容すべきではない。
 したがって、上記臨時株主総会における決議は、「著しく不当な決議」(同号)といえる。

エ 甲社株式は、A及びDが400株、B及びCが100株、乙社が200株保有している。そのため、乙社が上記決議において議決権を行使しなければ、「出席した…株主の議決権の三分の二…以上にあたる多数」(795条1項、309条2項11号)800株分の賛成を得ることはできなかった。
 したがって、乙社が「議決権を行使したことによって」(831条1項3号)、上記決議が為されたといえる。

⑶ よって、Dによる上記訴えは認容される。

2. Dは、本件「合併…が法令…に違反する」(会社法(以下、略)796条の2第1号)の差止請求(同条柱書)をすることが考えられる。

⑴ 吸収合併を行うためには、株主総会による特別決議において承認を得なければならない(795条1項、309条2項11号)ところ、上記の通り臨時株主総会決議についての取消訴訟は認容される。そこで、当該決議は遡及的に無効(839条反対解釈)となることから、本件合併は有効な株主総会特別決議による承認を得ないで行われたものといえ、違法である。
 したがって、本件「合併…が法令…に違反する」といえる。

⑵ 上記の通り、本件合併に係る合併対価は不当である。そのため、本件合併が行われれば、甲社の既存株主は、保有する株式の価値が希釈化されるという「不利益」(796条の2柱書)を被る。

⑶ したがって、上記請求は認められる。なお、上記請求訴訟が確定する前に本件合併の効力が生じるおそれがあるため、上記訴訟を本案とする仮処分(民事保全法23条1項)を申し立てるべきである。

設問2(2)

1. Dは、本件合併無効確認訴訟(828条1項柱書、同項7号)を提起することが考えられる。

⑴ まず、上記の通り、Dは甲社「株主」(同条2項7号)にあたる。

⑵ 次に、本件合併の効力が生じたのは、X+5年5月10日であることから、同年6月1日現在は、「吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内」(同条1項7号)である。
 したがって、上記訴えは訴訟要件を充足する。

⑶ 上記の通り、本件合併契約に係る合併対価は不当である。そこで、Dは当該合併対価の不当が無効事由になると主張することが考えられる。

ア 上記の通り、無効事由は重大な法令又は定款違反に限られると解する。そして、組織再編計画の策定につき取締役には忠実義務に適った計画策定が期待でき、また、当該計画につき株主総会による承認を得ている以上、株主総会による判断を尊重すべきである。そこで、合併比率が不当であること自体は、無効事由にならないと解する。

イ 上記の通り、本件合併契約の承認に係る臨時株主総会決議には、同号事由が認められ、その結果著しく不当な決議が為されている。

ウ したがって、本件合併の対価が不当であることは、無効事由となる。

⑷ 上記の通り、臨時株主総会決議には831条1項3号事由が認められる。そこで、Dは、当該事由の存在が無効事由になると主張することが考えられる。

ア 吸収合併契約を承認した株主総会決議の取消訴訟を提起した上で認容判決を得た後でなければ、無効確認訴訟において有効な株主総会決議がなかったことを主張し得ないとすれば、無効確認訴訟の提訴期間を経過するおそれが高い。そこで、無効確認訴訟において、取消事由の存在を無効原因として主張し得ると解すべきである。もっとも、提訴期間を定め、会社法律関係の早期確定を図ろうとして831条1項柱書の趣旨に鑑み、取消事由を無効原因として主張し得るのは、株主総会決議のあった日から三箇月以内(同項参照)に限られると解する。
 そして、合併比率の不当が無効事由にならない理由は、株主総会による判断を尊重すべき点にある。他方で、831条1項3号事由が存在する場合には、多数決原理の濫用が存在したといえ、株主総会決議を尊重すべきでない。そこで、合併比率が、①吸収合併に承認に係る株主総会決議に831条1項3号事由が存在したことにより、②著しく不公正なものとなった場合には、無効事由になると解する。

イ まず、上記の通り、本件臨時総会には831条1項3号事由が存在し(①充足)、これによって、著しく不当な合併対価とする旨の合併契約が承認されている(②充足)。
 次に、上記臨時株主総会決議は、X+5年4月5日に行われていることから、同年6月1日現在は、決議の日から三箇月以内といえる。

2. よって、上記訴えは認容される。

以上

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