7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2023年 商法
小問1
1. 本件1億円が取締役の報酬(361条1項)に該当すれば、取締役の報酬請求権は株主 総会決議を経て初めて生じる以上、株主総会決議のない本件では報酬請求権は生じておらす、かかる請求はできないと考えられるため、報酬該当性が問題となる。
⑴ そもそも、同条の趣旨は、取締役が自己の報酬を決定するといわゆるお手盛りとなり不相当に高額な報酬が払われるおそれがあるため、報酬の決定権を株主総会に委ね、かかる危険を防止することにある。
退職慰労金は報酬の後払い的性質を有する上、退職慰労金を取締役が決定するとなると、残存取締役が自己の退職慰労金の基準になると考え、不当に高い報酬額を設定することも考えられるため、お手盛りに準じた危険が存在すると考える。
⑵ 本件では、B退任の条件として1億の支払いをするものであるが、退任後2年以内に支払うなど退任に伴う支払いであることを加味すれば実質的には退職慰労金といえ、Aの退任時にもその支払いが基準となり同様の支払いがなされるおそれはあるのであって、報酬に該当すると考えるべきである。
⑶ よって、株主総会決議のない本件では、報酬請求権は生じていない。
⑷ なお、Aは会社の株式の7割を有するに過ぎず、Aの同意によって株主の承認があったとはいえないから、株主総会を欠く瑕疵は治癒されない。
小問2
1. Bは、甲社に対し350条に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、代表取締役Aの不当な職務執行によって支払われるべきであった退職慰労金相当額1億円の損害を被ったとして支払いを求めることが考えられる。また、仮に1億円の損害は認められないとしても、通常得られる退職金相当額の損害を被ったと主張することも考えられる。
2. 次に、Bに対しては、同一の損害につき、429条に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
以上