2024年 刑法 岡山大学法科大学院【ロー入試参考答案】

The Law School Times【ロー入試参考答案】

岡山大学法科大学院2024年　刑法

問題１　設問１

１.　Xの行為に窃盗未遂罪(刑法（以下、法令名略）235条、243条)が成立するか。

⑴窃盗罪は、他人の財物を窃取する犯罪であるところ、Xは、他人であるAが所有する「財物」である100万円を、自己の占有に移そうと試みていた。

⑵しかし、Xは、A宅玄関の鍵を壊している際に、警察官に発見され、玄関から歩き出そうとしたところで警察官Bに取り押さえられ、実際に100万円を窃取するには至らなかったが、かかる場合にも窃盗未遂罪が成立するか。未遂犯が成立するためには、実行の着手（43条本文）があったといえる必要があるが、本件でＸについて実行の着手があったといえるか。実行の着手の意義が問題となる。

ア　この点について、未遂罪の処罰根拠は結果発生の具体的危険性を惹起した点に求められる。そこで、実行の着手は、結果発生の具体的危険性が生じた時点で認められると解する。
　そして、かかる危険性の判断には、行為者の主観が影響することから、行為者の主観、とりわけ故意のみならず、犯行計画をも考慮すべきである。

イ　これを本件についてみると、確かにＸは、Ａとは面識はなく、Ａ宅の間取りやＡが現金を保管している場所について何ら情報を有しておらず、本件では、Ａ宅の玄関の鍵を壊している段階でBに発見されており、100万円を見つけることなく、取り押さえられている。
　しかし、Ｘは、A宅に侵入して、Aの占有している100万円を窃取する意図で、Ａ宅の玄関の鍵を壊していたのであり、Ａ宅の規模、間取りを踏まえると、Ｂに取り押さえられなければ、Ｘは侵入後3分以内にこれを発見しＡ宅から持ち去ることが可能であった。
　そうだとすれば、ＸがA宅の玄関の鍵を壊している時点で、Aの100万円の占有を侵害するに至る危険性が明らかに認められるといえ、かかる時点で窃盗罪の実行の着手が既にあったと認められる。

ウ　したがって、ＸがＡ宅の鍵を壊した時点で窃盗罪の実行の着手が認められる。

⑶また、Xには故意(38条1項)も存在し、遊興費に窮して100万円を窃取しようとしていることからも、Xは権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用処分する意思を有していたといえ、不法領得の意思も認められる。

２.　よって、Ｘの行為に窃盗未遂罪が成立する。

問題１　設問２

１.　Ｙの行為に詐欺罪(刑法246条1項)が成立するか。

⑴詐欺罪は、「欺」く行為によって、他人を錯誤に陥らせ、錯誤に基づき財産的交付をさせる犯罪である、

⑵まず、「欺」く行為とは、財産交付の基礎となる重要な事実を偽ることであるが、本件では、Cは、花瓶が20万円すると思い、その花瓶が10万円で購入できると思い、購入したのであって、Cが花瓶が実際は10万円だと知って入れば購入しなかったといえるので、財産交付の基礎となる重要な事実を偽ったといえ、「欺」く行為があったといえる。

⑶次に、ＣはＹの欺く行為によって、花瓶の時価が20万円あるとの錯誤に陥り、その錯誤に基づき10万円で購入しているのであるから、処分行為及び占有移転についても認められる。

⑷もっとも、Ｃは10万円の花瓶を10 万円で購入しているのだから財産的損害はないとも思える。そこで、本件においてCに財産的損害があったといえるか。詐欺罪における財産的損害の意義が問題となる。

ア　この点について、財産的損害については実質的に把握するべきであるため、取引の目的等を考慮した上で、被欺罔者の追求した経済的目的が達成できたか否かによって決する。

イ　これを本件についてみると、本件では確かに、花瓶の本来の値段は10万円であり、その花瓶をＣは10万円で購入しているのであるから、形式的にみれば損害は生じていないとも思える。
　しかし、Ｃは本件の花瓶について、入手困難であり、20万円を支払わなければ手に入らない花瓶だと認識していたものである。しかし、実際には本件の花瓶は一般に市販されており、誰でも入手可能であるのであるから、Ｃの取引目的は達成できなかったと考えられる。

ウ　したがって、Ｃは経済的目的が達成できていない以上、財産的損害があったといえる。

２.　よって、Ｙの行為に詐欺罪が成立する。

以上