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2023年 刑事法系 名古屋大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑事法系 名古屋大学法科大学院【ロー入試参考答案】

1/7/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

名古屋大学法科大学院2023年 刑事法系

設問Ⅰ
 遅すぎた構成要件実現とは、行為者が第1行為によって結果を実現したと思い第2行為を行ったところ、第2行為によりはじめて第1行為によって予定していた結果が生じた場合をいう。この場合、第2行為時には第1行為に係る犯罪の故意が認められないため、行為者に第1行為に係る犯罪を成立させるためには、第1行為と第2行為によって生じた結果との間に因果関係が認められる必要がある。そして、因果関係は行為の有する危険性が現実化した場合に認められるところ、第1行為の後、第2行為が介在して結果が発生することが、第1行為の危険性の実現として評価できるのであれば、因果関係を認めることができる。また、この場合、主観面において、因果関係の錯誤が問題となり得るが、現実の因果経過を認識していなくても、行為の有する危険性が現実化したという因果経過を認識していれば故意非難としては十分であるから、故意は否定されない。

設問Ⅱ

1. 甲が演奏会の切符2枚が入った封筒を自分の鞄の中に入れた行為

⑴ 上記行為に、窃盗罪(235条)が成立するか。

⑵ まず、「他人の財物」とは、他人の占有する財物、すなわち、他人が事実的に支配・管理する財物をいうところ、Xは電話をするために一時的に席を離れたにすぎないことから、本件封筒は、Xが事実的に支配・管理する財物といえ、「他人の財物」にあたる。
 そして、「窃取」とは、財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己又は第三者の占有に移転させることをいう。甲は、Xが一時席を離れた際に本件封筒をXに無断で自己の鞄の中に入れており、財物の占有者の意思に反して、その占有を侵害し、自己の占有に移転させたといえ、「窃取」したといえる。

⑶ また、甲の行為態様から犯罪事実の認識があるといえるから、故意も認められる。

⑷ 不可罰的な使用窃盗及び軽い毀棄罪との区別から窃盗罪の成立には、不法領得の意思が必要である。そして、不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用・処分する意思をいう。
 これをみるに、甲は本件封筒を取り出して自己の鞄の中に入れて持ち去っていることから、権利者排除意思は認められる。しかし、甲は本件封筒に入っていた演奏会の切符1枚を費消しているものの、本件封筒を取り出した時点では、あくまでもX及びYへの嫌がらせとしてどこかへ捨てる目的であった。演奏会の切符を消費したのは、あくまで封筒を捨てる場所を探しながら自分の住む団地に向かって歩いたが適当な場所が見つからなかったことから念の為演奏会について調べたところ、たまたま自分にとって興味深い内容であることが判明したからであり、行為時点で利用処分意思が存在していたとはいえない。したがって、利用処分意思が認められず、不法領得の意思は認められない。

⑸ もっとも、本件封筒を取り出す行為は、本件封筒を隠匿してその効用を侵害するものであるから「損壊」に当たり、器物損壊罪(261条)が成立する。

2. 甲がYを包丁で脅しながら全裸になるよう命じ、これに従ったYの身体を、自己の携帯電話機で写真撮影した行為

⑴ 上記行為に不同意わいせつ罪(176条1項)が成立するか。

⑵ 甲はYを包丁で脅して全裸になるよう命じていることから「脅迫」(176条1項1号)を用いたといえる。
⑶ そして、Yは恐怖心から抵抗できずこれに従っていることから上記行為「により、同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせ」たといえる。
⑷ また、「わいせつ行為」とは徒に制欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいい、これに当たるか否かは、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分踏まえた上で、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを判断する。そして、性的意図の有無等の主観的事情は、その判断に際して考慮される事情の1つに過ぎず、性的意図は本罪の成立要件ではないと解する。
 これをみるに、甲が当該行為を行った目的はYに屈辱を味合わせるとともにXにも心痛を与えるというXYへの復讐にあり、甲に自らの性欲を満足させる意図があったことは認定できなかった。しかし、全裸となった人の身体を携帯電話機で写真撮影する行為は客観的に見て徒に制欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為にあたることは明らかである。
 したがって、甲が全裸となったYの身体を自己の携帯電話で写真撮影した行為は「わいせつ行為」にあたる。

⑸ そして、甲は、その行為態様から、犯罪事実の認識があったといえるから、故意も認められる。

⑹ したがって、甲の上記行為に不同意わいせつ罪が成立する。

以上

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