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2023年 刑事法 筑波大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑事法 筑波大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

日本大学法科大学院2023年 刑事法

第1 刑法

1.   甲の罪責

⑴ 警察官を装って乙に電話をかけた上、乙宅を訪れて金融庁職員を名乗った行為につき、詐欺未遂罪(246条1項、250条)又は窃盗未遂罪(235条、243条)のいずれが成立するか。

ア まず、上記行為が「欺」罔行為(246条1項)にあたる場合には、詐欺未遂罪の成否を検討すべきであるところ、「欺」罔行為は財産的処分行為に向けられたものである必要がある。そして、処分行為に向けられているといえるには、少なくとも占有の移転を基礎づける外形的事実を被欺罔者が認識していることに向けられたものである必要がある。
 一方、上記行為が処分行為に向けられた「欺」罔行為にあたらない場合、占有者の意思に反する占有移転の危険ある「窃取」行為(235条)として、窃盗未遂罪の成否を検討すべきである。
 甲の計画では、甲が乙宅を訪れ、乙に用意させたキャッシュカードを空の封筒に入れさせた上で、「この封筒に封印をするための印鑑が必要です。」と申し向け、印鑑を取りに行くために乙がその場を離れた隙に、乙宅という乙の支配領域内でキャッシュカード入りの封筒とポイントカード入りの封筒とをすり替え、キャッシュカード入りの封筒を持ち去る予定であったにすぎないため、キャッシュカードの占有の移転を基礎づける外形的事実を乙が認識していることに向けられていたとはいえず、上記行為はキャッシュカードの交付に向けられた「欺」罔行為といえない。したがって、上記行為については窃盗未遂罪の成否を検討すべきである。

イ 甲に窃盗罪の「実行」の「着手」(43条本文)があったといえるか。

(ア)実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為であるから、右危険性が惹起された時点で「実行」の「着手」が認められる。

(イ)たしかに、乙は甲がキャッシュカードを詐取する疑いをもって甲を自宅に招き入れている。しかし、上記危険性の判断は客観的になされるべきであり、本件では、甲が69歳と高齢の乙に警察官を装って電話をかけ、キャッシュカードを用意させた上で、金融庁職員を装って乙宅を訪れた時点で、客観的にみて乙のキャッシュカードが、乙の意思に反し甲のもとへ占有移転される危険性が生じていたといえる。

(ウ)よって、窃盗の着手が認められる。

ウ もっとも、甲はキャッシュカードの占有移転「を遂げなかった」。

エ 甲には窃盗罪の故意(38条1項)があり、権利者排除意思及び利用処分意思を内容とする不法領得の意思も認められる。

オ よって、上記行為に窃盗未遂罪が成立する。

⑵ 乙の胸ぐらをつかみ、投げ飛ばそうとした行為につき、事後強盗未遂罪(238条、250条)が成立するか。

ア 上記の通り、甲には窃盗未遂罪が成立する以上、甲は「窃盗」にあたる。

イ 「暴行」は、相手方の反抗を抑圧する程度のものであることが必要である。
 本件で、甲は49歳である一方、乙は69歳と高齢で力量に衰えがあると考えられるから、たとえ乙が空手有段者であるとしても、甲が乙の胸ぐらをつかみ、投げ飛ばそうとすることは、乙の反抗を抑圧するに足るものといえ、「暴行」といえる。甲は、「逮捕を免れ」るために上記行為を行なっている。また、甲には事後強盗罪の故意も認められる。

ウ そして、強盗罪(236条1項)の既遂・未遂の区別が財物取得の有無を基準とする以上、これに準ずる事後強盗罪(238条)の既遂・未遂の区別も「窃盗」の既遂・未遂を基準とすべきである。

⑶ 本件で甲の「窃盗」は未遂である以上、上記行為に事後強盗未遂罪が成立する。

2. 乙の罪責

⑴ 甲の腕を振りほどき、甲の顔面付近に回し蹴りを加えて転倒させた行為につき、傷害致死罪(205条)が成立するか。

ア 甲の腕を振りほどき、甲の顔面付近に回し蹴りを加えて転倒させ、頭部を強打させ意識を失わせた行為は、甲の生理的機能に障害を加えるものといえ、甲の「身体を傷害し」たといえる。そして、甲の「死亡」結果も生じている。

イ もっとも、甲は、病院に搬送される途中で救急車が事故を起こしたことから甲は、病院に搬送される途中で救急車が事故を起こしたという介在事情を直接の死因として、甲は、内臓破裂に伴う出血性ショックにより死亡しているため、介在事情の結果発生への寄与度が大きく、また、救急車が事故を起こす介在事情の異常性が高いため、上記行為が内包する危険が結果として現実化したものとはいえず、乙の行為に「よって」甲が死亡したとはいえない。

ウ よって、上記行為に傷害致死罪は成立しない。

⑵ では、上記行為に傷害罪(204条)が成立しないか。

ア 上記と同様、甲は乙という「人の身体を傷害した」といえる。

イ そして、甲には傷害罪の故意も認められるから、上記行為は傷害罪の構成要件に該当す

る。

ウ 乙に正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

(ア)乙の胸ぐらをつかみ、投げ飛ばそうとした行為は、乙の身体の安全を侵害する違法な行為といえ、「不正の侵害」といえる。乙はこれを防ぐ「ため」、上記行為を行なっている。

(イ)もっとも、乙は甲がキャッシュカードを詐取するつもりであると認識しながら、返り討ちにするつもりで待ち伏せ、逃げようとした甲に対し上記行為に及んでいる。侵害の「急迫」性が否定されないか。
 この点、侵害を単に予期していたにすぎない場合には直ちに「急迫」性は否定されないものの、これを予期しつつ積極的加害意思をもって当該状況に臨んだ場合は、否定される。
 乙は、空手の有段者で喧嘩に自信があり、甲を痛めつける目的で待ち構えていた。したがって、乙は積極的加害意思を有していたといえる。また、甲が逃げようとした際強く抵抗することも乙は予想していたといえ、甲が乙を投げ飛ばそうとしたことは乙の予期を上回るものともいえない。
 よって、「急迫」性が否定される。

(ウ)よって、正当防衛は成立せず、違法性は阻却されない。

⑶ 以上より、乙の行為に傷害罪が成立する。

第2 刑事訴訟法

1. Kの措置は、承諾なき所持品検査として適法か。

⑴ 所持品検査は、職務質問の目的を達する上で、必要・有効な行為であるから、職務質問に付随する行為として、警察官職務執行法(以下、法令名省略)2条1項を根拠に認められる。そこでまず、Kの措置が適法になるには、同項の要件を満たす必要がある。
 本件では、Kが運転席および助手席の窓ガラスに黒色フィルムを張った不審な外観のA車を発見し、整備不良車と認めて、注意指導するため停車を求め、パトカーから下車して整備不良であることを告げて事情を聴こうとしたところ、Aは同車を発進させるという不自然な行動に出ている。その上、Kが免許証の提示を求めると、Aは、当初は忘れてきたと答え、偽名を名乗るなどしてその場を取り繕おうとしたから、Aには「何らかの犯罪を犯していると疑うに足りる相当な理由」があり、同項の要件は満たされる。

⑵ そして、所持品検査は職務質問に付随する行為として所持人の承諾を得て行うのが原則であるが、所持品検査が犯罪の予防、鎮圧を目的とする行政活動であることに鑑み、捜索に至らず、強制に渡らない程度の行為である場合には、承諾なき所持品検査も許容され得る。
 Aの右ポケットを外側から三回叩く行為は、特定の犯罪の証拠物の発見を目的としているわけではなく、捜索に至っているとはいえない。また、Aの右ポケットを外側から三回叩いたにすぎず、そのみだりに所持品を確認されない自由(憲法13条後段)への侵害の程度は軽微であり、Aの重要な権利利益を実質的に侵害する強制にわたるものともいえない。

⑶ そうだとしても、承諾なき所持品検査は無制約に認められるわけではなく、「必要な最小の限度」(1条2項)でなされなければならない。
 具体的には、所持品検査の必要性・緊急性、これにより害される個人の利益と得られる公共の利益との権衡を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される。
 そして、本件では、Aは整備不良車を無免許で運転し、パトカーから逃げようとしたり、Kらの質問に対し偽名を名乗りその場を取り繕おうとしたりするなど、明らかに不審な行動を見せている。したがって、Aは薬物事犯などに関わっている嫌疑も相当程度あるといえい、Aの右ポケットが異様にふくらんでいることを認めら本件状況下では、これを調べる必要性は高かったといえる。
 これに対し、3回続けてAの右ポケットをたたく行為は、Aの身体に対する有形力の行使であり、Aのポケットの中身を確認する点でみだりに所持品を確認されない自由を一定程度制約するものである。しかし、ポケットを外側からたたいている点でその侵害の程度は強いとは認め難い。とすると、Kの措置は、具体的状況の下で相当と認められる限度においてされたといえる。
 よって、Kの措置は適法である。

以上

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