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2024年 民法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2024年 民法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】

12/28/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

神戸大学大学法科大学院2024年 民法

第1問

設問ⅰ

1.CのBに対する甲土地の所有権(206条)に基づく返還請求権としての土地明渡請求は認められるか。

⑴ かかる請求が認められるための要件は、Cが甲土地を所有していること、Bが権原なく甲土地を占有していることである。

⑵ まず、Cはもともと甲土地を所有していたAから、甲土地買い受けており(555条)、AからCに対して甲土地の所有権が移転しているとも思える(176条)。

⑶ ここで、同売買契約の締結に先立ち、AはBに対して甲土地を売却している。もっとも、Bは登記を備えておらず、「第三者」(177条)には悪意の第三者も含むため、Cが確定的に所有権を取得したといえる。
 一方、Bは、Cの甲土地取得により確定的にCの所有権が帰属したことにより、所有権が喪失したところ、権原なく甲土地を占有しているといえる。

⑷ 次に、Bとしては、Bが甲土地を占有して10年以上経過したため、甲土地の所有権を時効取得(162条2項)しCは甲土地の所有権の喪失する旨の反論をすることが考えられる。かかる反論は認められるか。

ア まず、「所有の意思」「平穏」「公然」「善意」で占有していることは186条1項で推定され、かかる推定を覆滅させる事情はない。

イ 次に、Bの「善意」が無過失によるものかを検討する。ここでいう無過失とは他人の物だと知らなかったことに関して注意義務違反があることをいう。
 これを本件についてみると、CとBは無関係の者であり、BはAC間の売買契約を知ることはできなかった。また、Bは甲土地の所有権移転登記を自己の希望で移転させてないが、登記はあくまで物権変動の対抗要件であり、他人に所有権を対抗できるかどうかにすぎないものであるから、これを自らの都合により具備しなかったとしても目的物が他人の物になっているかどうかの注意義務違反にはつながらない。
 したがって、Bに甲土地が他人の物であることにつき注意義務違反はなく、Bは無過失といえる。
 そして、Bは、甲土地を12年占有しているため時効の期間を経過している。
 また、時効制度の趣旨は永続した事実状態を尊重してこれを実体法上の権利関係に高め、また、真実の立証の困難性を救済する点にあるところ、かかる趣旨は、自己物でも妥当するから、「他人の物」とは例示であり、自己物の時効取得も認められる。

ウ よってBは援用(145条)することにより取得時効が成立する。

エ もっとも、Bの時効取得が完成したとしても、時効完成時の甲土地の所有者であったCに登記なくして甲土地の所有権を対抗できるかが問題となる。

(ア) 時効による所有権取得は原始取得であり、元の所有者から時効取得者に対し物権変動があったわけではない。
 しかしながら、一方の権利取得の結果として他方が権利を失うという関係は権利移転の場合と同様のため、物権変動の当時者と同視することができ、占有者からみて時効完成前の譲受人は、第三者ではなく物権変動の当事者であるから対抗関係に立たない。また、実際上、占有者が登記を備えられることはほとんどなく、それを要求するのは酷である。
 そこで、占有者との関係で時効完成前の譲受人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」ではなく、時効取得者は元の所有者に対して登記なくして所有権を対抗できると解する。

  1. したがって、BはCに対して登記なくして甲土地の対抗要件を対抗できると解する。

オ よってBの前記の反論は認められる。

⑸ 以上よりBの反論は認められ、Cの請求は認められない。

設問ⅱ

1. DのBに対する甲土地の所有権に基づく返還請求としての土地明渡請求は認められるか。

⑴ まず、DはCから甲土地買受けているためCから甲土地の所有権を承継取得しており(176条)、Bは現在甲土地を占有している。そのため、上記請求は認められるようにも思える。

⑵ もっとも、Bとしては甲土地を時効取得し甲土地の所有権を取得しDは甲土地の所有権を取得しない旨の反論をすることが考えられる。かかる、反論は認められるか。

ア 前述の通りBが甲土地を占有し始めてから10年経過した時点で時効取得が完成する。そのため、上記反論も認められるように思える。

イ もっとも、Bの取得時効が完成した後にCD間で甲土地を目的物とする売買契約が行われており登記の移転までなされているところ、Bは登記なくしてDに甲土地の所有権を対抗することはできるか。

(ア) 時効による権利取得は原始取得であるものの、時効完成後の第三者との関係では、元所有者から、それぞれ時効取得者、第三者への二重譲渡があった場合と同視することができる。そこで、時効取得者と時効完成後の第三者は対抗関係に立ち登記の先後で優劣を決すると解する。

(イ) これを本件についてみると、Bは登記を有していなく先にDが登記を有している。したがって、BはDに対して甲土地の所有権を対抗することができない。

ウ よってBの上記反論は認められない。

⑶ 以上よりDのBに対する請求は認められる。

第二問

1.  CのBに対する本件売買契約によって生じた50万円の代金債権に基づく請求は認められるか。

⑴ まず、本件売買契約は2023年4月10日に有効に締結されている。そして、本件売買契約によって生じた代金債権は、AからCへと譲渡(466条1項本文)されており、譲渡人たるAが債務者たるBに債権譲渡の通知(467条1項)をし通知は到達している。したがって、Cの上記請求は認められるようにも思える。

⑵ もっとも、これに対しBは本件売買契約の目的物引き渡しをAは行っていないため「債務を履行しない場合」(541条1項本文)にあたり解除したとして、自己の代金支払債務は消滅しこのことをCに対抗できる(468条1項)旨の反論をすることが考えられる。かかる反論は認められるか。

ア まず、解除が有効に成立するかにつき検討する。
 解除が有効に成立するためには、「当事者の一方がその債務を履行しない場合」で、解除の通知をし、相当期間が経過すること、債務不履行が軽微でないことである。そして「当事者の一方が債務を履行しない場合」とは債務の本旨に従った履行がされない場合をいう。
 これを本件についてみると、本件売買契約におけるAの債務は本件ワイン100本をBに譲渡することであり、食品の卸売業のBに対するものであることを考えると飲用に適した品質を持つ銘柄αのワインを渡すことが要求される。そして、本件ワインは、引き渡し前の8月20日の落雷による甲の冷蔵設備の故障により飲用として適さない程度に品質が低下している。また、かかる品質の低下の原因は引き渡し前でありBの帰責性によるものでもない。そのため、本件ワインをBに引き渡したとしても品質が飲用に達していない以上債務の本旨に従った履行がなされたとはいえない。そしてその後もAは代替品をBに引き渡していない。
 したがって、「当事者の一方がその債務を履行しない場合」といえる。
 そして、Bは一旦9月15日に債権の履行の催告をしている。債権者に二重の催告を要求することは債権者にとって酷であるから、債権の催告から相当期間が経過すれば、541条1項本文にいう相当の期間の経過がしたとされると解する。そして、Bの前記催告から約1か月経っているため、相当期間が経過したといえる。
 また、解除の通知もAに到達している。
 「軽微」であるかは、「債務の発生原因及び取引上の社会通念」にしたがって判断する。上記のような契約内容からすれば、債務の不履行が軽微とはいえない。
 よってBによる本件売買契約の解除は有効である。

イ もっとも、AからCに代金債権が譲渡されたのは8月1日でBに通知が到達したのも同日であり、落雷による品質の低下や解除がなされたのは譲渡後である。そのため、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」といえず本件売買契約の解除をCに対抗できないのではないか。「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」の意義が問題となる。

(ア) そもそも461条1項が抗弁の承継を定めた趣旨は、債権譲渡に関与しない債務者が譲渡によって不利益が被らないようにするためである。
 そこで、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」とは対抗要件具備時までに抗弁事由が発生していることをいうのではなく抗弁事由発生の基礎となる事由が存在していれば足りると解する。そして、抗弁事由の発生の基礎は債務者保護の観点から広くとらえるべきである。

(イ) これを本件についてみると、解除の原因である債務不履行や落雷による品質の低下はBへの通知の到達以後である。もっとも、Bへの通知の到達以前に本件売買契約の履行はなく、本件売買契約が解除されるおそれがある以上解除の抗弁の発生の基礎は生じているといえる。
 したがって本件においてもBは解除を「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」としてCに対抗できると解する。

ウ よって、Bの上記反論は認められる。

⑶ 以上よりCの請求は認められない。

                                      以上


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