7/30/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2022年 刑事訴訟法
問題1
同種前科・類似事実による犯罪事実の立証が原則として禁止される理由は、同種前科から推認される悪性格は、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、そのために事実認定を誤らせるおそれがあり、また、これを回避し同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため、当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど、その取調べに付随して争点が拡散するおそれもあるからである。
もっとも、①前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を備えていること、②起訴に係る犯罪事実がこの顕著な特徴について相当程度類似していることから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものである場合には、同種前科を被告人と犯人の同一性の証明に用いることを例外的に許容しうる。
なぜならば、上記場合には、人格評価を低下させる危険・争点拡散の危険を凌駕する程に強く被告人の犯人性を推認することができるからである。
問題2
小問1
1. K警察官らによる捜索は、逮捕に伴う捜索(220条1項2号)として適法か。
2. 本件ではK警察官らが甲を令状により通常逮捕しているため「199条の規定により被疑者を逮捕する場合」(220条1項柱書)にあたる。そして、甲は強盗致死傷の被疑事実により通常逮捕されており、かかる被疑事実に関連する証拠物を所持している疑いがあるから、甲の着衣のポケットや所持していたセカンドバッグの中を捜索する「必要があるとき」にあたる。もっとも、捜索を行った場所は逮捕現場から約2キロメートル、時間にして約10分のA警察署であるところ、「逮捕の現場」(220条1項2号)といえるか問題となる。
3. この点、逮捕に伴う捜索差押が無令状で許容される(同条3項)趣旨は、逮捕現場に被疑事実に関連する証拠物が存在する蓋然性が高く、令状裁判官の事前審査を経ずとも捜索・差押の「正当な理由」が一般的に認められることから、令状主義の合理的な例外として肯定される点にある。 そして、被疑者のいる場所を移動しても被疑者の身体・所持品に証拠物が存在する蓋然性は変化しない一方、「逮捕の現場で」という文言上の限界もある。
そこで、逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索・差押である場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者の抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索・差押を実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索・差押の実施に適する最寄りの場所まで連行した上で捜索・差押を実施することも、「逮捕の現場」における捜索・差押と同視することができる。
4. 本件では、甲を逮捕した場所の周囲に野次馬が集まり騒然としたから、その場で直ちに捜索・差押を実施することができないときにあたる。そして、K警察官らは逮捕現場からパトカーでわずか約10分の警察署に連行し、速やかに被疑者を捜索差押の実施に適する最寄りのA警察署まで連行しているから、K警察官らの捜索は「逮捕の現場」におけるものと同視できる。
5. したがって、K警察官らによる捜索は、逮捕に伴う捜索として適法である。
小問2
1. K警察官らによる捜索は、逮捕に伴う捜索として適法か。
2. 逮捕に伴う捜索差押が無令状で許容される趣旨は上記の通りであるから、 「逮捕の現場」とは、捜索差押許可状を請求すれば許容されるであろう相当な範囲、具体的には逮捕場所と管理権を同一にする場所的範囲であると考えるべきである。
3. 本件では、甲を逮捕したのはB携帯電話ショップの休憩室であり、その管理権はB携帯ショップにある。一方で、捜索の対象となった場所はB携帯電話ショップの休憩室内のロッカーであるところ、ロッカー自体はB携帯ショップの支配に属するといえるが、ロッカーの中については、その当時ロッカーを使用している者の管理支配権下にあるといえる。なぜならば、ロッカーは通常、使用している者のみがあけることを想定されているという性質から、ロッカー使用者のプライバシーの領域であるといえるからである。
したがって、逮捕場所と管理権を同一にしているとはいえず、K警察官らによる捜索は、「逮捕の現場」でされたとはいえない。
4. 以上より、K警察官らによる捜索は、逮捕に伴う捜索差押として適法とはならず、無令状捜索として令状主義を定める218条1項に反し違法である。
以上