5/11/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2025年 刑事訴訟法
設問1
1. Aホテル3階301号室の捜索差押えは適法か。
甲は逮捕されている(刑事訴訟法(以下略)212条1項)から、逮捕に伴う無令状捜索差押え(220条1項2号、3項)として認められないか。
2. 甲は現行犯として逮捕されているから、「現行犯人」(同条1項柱書)といえる。そして、ロビーで甲を逮捕した後に301号室へ連行しているから、逮捕との時間的接着性が認められ、「逮捕する場合」といえる(同条1項柱書)。また、本件は覚せい剤取締法違反の事案であるから、部屋に証拠が存在している蓋然性が高く、覚せい剤は証拠隠滅も容易であるから捜索が「必要」といえる(同条1項柱書)。
3. もっとも、警察官は同ホテル1階のロビーで甲を逮捕しているにもかかわらず、301号室を捜索している。そこで、301号室が「逮捕の現場」(同条1号2号)といえるか問題となる。
⑴逮捕に伴う捜索差押えが無令状で行いうる(同条3項)のは、逮捕現場には、証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、「捜索すべき場所」(219条1項)を逮捕場所とする令状を請求すれば、当然に発付されるため、裁判官による事前の司法審査を要しないからである。そこで、「捜索」の対象は、仮に「捜索すべき場所」を逮捕場所とする令状を得たとしたら捜索できる範囲、すなわち、逮捕地点を起点として、逮捕地点と同一の管理権が及ぶ場所的範囲をいうと解する。
⑵本問において、逮捕地点はAホテル1階のロビーであるから、逮捕地点の管理権者はAホテルとなる。一方で捜索対象は、同ホテル3階の301号室であり、そこは宿泊していた甲に管理権がある。よって、301号室は「逮捕の現場」とはいえない。
したがって、301号室の捜索は違法である。
⑷そして、違法な捜索に続く差押えも違法である。
⑸以上より、301号室の捜索差押えは違法である。
設問2
1. 甲の自白は、警察官が偽計・約束を用いた取調べによって得られたものであるとして、「任意にされたものでない疑のある自白」(319条1項)にあたり、証拠能力が否定されるのではないか。
⑴自白法則の根拠は、任意性に疑いがある自白は類型的にその内容が虚偽である危険があるため、絶対的に証拠として排除することで、誤判を防止する点にある。そこで、「任意にされたものでない疑のある自白」とは、類型的に虚偽の自白を誘発するおそれのある要因があり、それにより心理的強制を受けてなされた自白をいうと解する。
⑵本問では、警察官は、検察官からそのような話がなかったにもかかわらず、「検察官は、あなたが初犯であることも考慮して、反省して全てを素直に話せば起訴猶予にすると言っている」と甲に噓を言って、甲に自白をするよう促している。
そのため、起訴猶予にするという誘因があると言える。確かに警察官に起訴猶予権限はないものの、そのことは法律の素人である甲が知らなくても無理はない事柄であり、甲にとっては不起訴の合意に等しい利益誘導といえ、甲の心理状態に強い影響を与えていると言える。そのため、甲は、約束により捜査官に迎合して虚偽の自白をする類型的危険があったと言える。
そうすると、本件自白は類型的に虚偽の自白を誘発するおそれのある要因があり、それにより心理的強制を受けてなされた自白だから、「任意にされたものでない疑のある自白」にあたり、絶対的に証拠排除される。
2. 以上より、甲の自白の証拠能力は認められない。
以上