2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2023年 民法
第1 設問Ⅰ
問題1
1. AのDに対する請求は認められるか。
⑴ Dは「第三者」(民法(以下、法令名略)96条3項)として請求を拒めないか。
ア 「第三者」とは、詐欺のあった法律関係を基礎として、取り消し前に新たな独立の法律上の利害関係を有するに至ったものをいう。
イ 本件では、Aが、詐欺を理由に本件契約を取り消した後、Bは、甲をCに対する債務に代えて代物弁済として譲渡し、Cはさらに甲をDに売却し、登記を移転している。したがって、DはAの取り消し後に利害関係を有するに至っている。
ウ よって「第三者」にあたらない。
⑵ 次に、Dは「第三者」(177条)として登記を具備していないAからの請求を拒めないか。
ア 「第三者」とは、物権変動の当事者または包括承継人以外のもので、登記の欠缺を主張する正当の利益を有するものをいう。自由競争の観点から、物権変動について単に悪意のものは右正当な利益を有するが、自由競争を逸脱するような背信的悪者は正当な利益を有しない 。
イ AB間の売買契約の取消により、当該契約は遡及的に無効となるため、AB間の物権変動が観念できないようにも思える。もっとも、法律行為の取り消しによる遡及的無効は法律上の擬制にすぎず、実際には新たな復帰的物権変動があったと解せられる。したがって法律行為の取り消し後の第三者たるDも、「第三者」に当たりうる。
ウ また、上記の背信性は、個別的に判断すべきであるから、背信的悪意者からの転得者は、自身について背信性を基礎づける事情がない限り、「第三者」として保護される(相対的適用説)。
エ 本件では、上記の通り、DはAによる本件契約取り消し後に利害関係を有している。そして、前の売主Cは、甲をめぐるAB間の物権変動の事情を知る悪意者であり、Aに対する個人的な反感から、Aを困らせようと考えてBに甲の譲渡を迫っていたという事情があるから、自由競争を逸脱する背信性のある背信的悪意者に当たる。もっとも、転得者たるDは、AB間の事情について知らず、AB間の物権変動につき善意であるから、登記の欠缺を主張する正当の利益を有する。
⑶ よって、Dは「第三者」にあたり、Aからの請求を拒める。
(1). 以上、AのDに対する請求は認められない。
問題2
1. AのDに対する請求は認められるか。
⑴ 問題1と同様、Dは取り消し後の第三者なので「第三者」(96条3項)にはあたらない。
⑵ Cが「第三者」(177条)として保護され、確定的に所有権を取得する結果、Aは所有権を喪失し、Cからの転得者Dに甲の所有権を主張できないのではないか。
ア 法律関係の早期安定と簡明さの見地から、「第三者」が確定的に目的物の所有権を取得した場合には、そのものからの転得者は、自身が正当な利益を有する「第三者」に当たるか否かに関わらず、目的物の所有権を取得する。
イ 本件では、Cには、甲をめぐるAB間の事情について知らず、AB間の物権変動につき善意であったから「第三者」に当たり、確定的に甲の所有権を取得する。そして、Dはその転得者に当たる。よって、Dは確定的に甲の所有権を取得する。
⑶ 以上、AのDに対する請求は認められない。
第2 設問Ⅱ
1. AがCに対して瑕疵修補費用相当額の損害賠償(709条)を請求することは認められるか。
⑴ 不法行為による損害賠償請求の要件は①個人の「権利又は法律上保護される利益」が②「故意又は過失によって」③「侵害」され、④「これによって」(因果関係)⑤「損害」が生じることである。
⑵ 本件では、Aやその家族の生命、身体に対する侵害は生じていない。しかし、丙建物に本件瑕疵があることで、Aの丙建物に対する所有権という「権利」を「侵害」している(①、➂充足)。なぜなら、住居用の建物においては、居住者の生命、身体、財産を害さない安全性を有することが重要であり、居住者の生命身体財産に危険が及ぶ可能性があることによって丙建物の価値が低下しているといえるためである。そして、上記の安全性の重要さに鑑み、それに注意を払うべきであったにもかかわらず、ずさんな設計、施工を行ったCの「過失」によって本件瑕疵による「侵害」が生じている(②充足)。本件瑕疵のないことを前提として、Aから建物を買い受けたBには、本件瑕疵により、少なくとも瑕疵修補費用相当額の「損害」が生じているから、④、⑤を充足する。
⑶ よって、AがCに対して瑕疵修補費用相当額の損害賠償を請求することは認められる。
以上