4/6/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2024年 民法
第1問⑴
1. 救済方法
「引き渡された目的物が」「数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(民法(以下略)562条1項)、「買主は、売主に対し」、①追完履行請求権(同項本文)、②代金減額請求権(563条1項)、③損害賠償請求権(564条、415条1項本文)、④契約の解除(564条、541条、542条)を行使又は主張することができる。
2. では、いずれの方法が適切か。
⑴前提として、「引き渡された目的物が」「数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」であるか。
「目的物」が、「数量に関して契約の内容に適合しない」とは、㋐当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、一定の面積・容積・重量・員数又は尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、㋑この数量を基礎として代金額が定められているときに、数量が不足している場合をいうと解する。
㋐について、本件の売買(以下「本件売買」)(555条)の契約書には甲土地の面積が表示されているが、これだけでは㋐を充たさない。Bは新居を建築する目的で本件売買を行っているところ、AB間において新居を建築するに足りる土地面積を確保するために、一定の面積があることを売主Aが表示していれば、㋐を充たす。
㋑について、甲土地の面積を基礎として代金額が定められていれば、㋑を充たす。
以上から、㋐㋑を充たす場合には、「引き渡された目的物が」「数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」であり、上記の救済方法①ないし④を用いることができる。
⑵次に、いずれかの救済方法が適切か。
ア ①について、甲土地の周辺には既に建物が建築されており、改めて甲土地の面積を契約書の記載通りの大きさとして追完して引き渡すには甲土地の周りの建物を破壊しなければならない。そのため、社会通念上追完することは不可能といえ、①は適切ではない。
イ ②について、前述の通り履行の追完は不可能であり563条2項1号に該当する。また、数量が足りないことは「買主」B「の責めに帰すべき事由によるもので」はない(563条3項)。そのため、②の方法によることができ、適切な方法である。
ウ ➂について、AがBに対し一定の数量の甲土地を引渡すことが本件売買の契約の内容となっている場合には、それに5平方メートル満たない数量の甲土地を引渡すことは、債務不履行となる。5平方メートル満たない場合でも甲は新居を建築できるが、実測よりも5平方メートル大きい甲土地の引渡しを受けられなかったという点で「損害」と因果関係がある。また、かかる債務不履行は社会通念上売主であるAの帰責事由に基づく。以上から、➂は適切な方法である。
エ ④について、実測の面積でも甲は新居を建築できることから、Aの債務不履行は「社会通念に照らして軽微である」(541条但書)といえ、④は認められない。実質的にも、建築可能である以上、本件売買を解除する必要性に乏しい。
第1問⑵
1. Bは甲土地の所有権(206条)を取得することはできるか。
⑴まず、甲土地はAが元々所有していたものである。そして、Aの子であるCがAの「代理人」(99条1項)と称してBと甲土地を目的物とする売買契約を締結している。しかしながら、CはAから甲土地を売買する代理権(99条1項)を授与されていない。そのため、Cが行った行為は無権代理(113条1項)のため効果不帰属となり、Aの追認(116条本文)がない以上、Bは甲土地の所有権を本人たるAの追認ない限り取得することができないのが原則である。また、Bは無権代理であることを知っていたから、表見代理(109条、110条、112条)によって保護されることもない。
⑵もっとも、Aは追認拒絶をする前に死亡し、CがAの地位を相続(882条、887条1項、896条本文)している。その結果、本人と無権代理人の地位が融合し、本人が自ら法律行為をしたのと同視することができるとして、契約が当然に効果帰属し、Bが所有権を取得することにならないか。
ア この点について、相続開始後も相手方に取消権(115条)や無権代理人の責任追及(117条)の余地を残しておくべきである。そこで、相続によっても地位の融合は生じず、本人と無権代理人の地位は併存すると解する。
したがって当然に無権代理人の行為が効果帰属することはない。
そして、地位の併存を前提とすると、無権代理人は、本人の地位で追認拒絶することができるとも思える。しかし、無権代理人の追認拒絶は、先行する無権代理行為と相容れず、信義則(1条2項)上、許されないと解する。
イ したがって、Cは信義則上追認を拒絶できず、追認が擬制される。たしかに、Bは無権代理行為であることについて悪意であり、要保護性が低いとも思えるが、無権代理行為をしたCが責任を免れることはできない。
2. 以上から、Bは甲土地の所有権を取得できる。
第2問⑴
1. 質権設定契約は344条で示されている通り要物契約であり、目的物を質権者に占有させて、質権者が質権設定者に対して債務の弁済を促すことが質権の趣旨であるから、目的物が質権者の占有下にあることが質権の存続の前提となっているといえる。「質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。」という345条の規定も、かかる趣旨に基づく。
2. そのため、Aが質物である本件時計を、「質権設定者」Bに占有させている以上、上記趣旨(344条、345条参照)から、Aの質権は消滅する。
第2問⑵
1. 質権者が質権の設定後、任意に質権設定者に返還した場合、質権の留置的効力に鑑みれば、目的物の占有を質権者が喪失することによって、質権は消滅するとも思える。
しかし、質権の本来的効力は優先弁済的効力にあり、留置的効力はあくまで債務者による弁済を促進するものに過ぎない。 また、352条は占有していなければ質権を第三者に対抗できないと示しているが、これを反対解釈すれば占有の継続は当事者間での対抗要件ではないといえる。
2. 本件では、質権の設定後、一時的にAがBに対して任意に本件時計を返還しているにすぎず、質権は存続する。
以上