6/19/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
愛知大学法科大学院2025年 商法
設問1
1. Bが本件貸付けについて返済を怠った場合、甲社の株主であるDは、甲社に対し、Bに対する責任追及等の訴えを提起するよう請求することができるか。かかる請求は、会社法847条1項に基づき行われるが、同項の要件を満たすか。
⑴まず、Bは甲社に対し、同項の訴えを提起することができる「責任」を負っていると言えるか。同項の「責任」の範囲が問題となる。
ア 株主代表訴訟の趣旨は、特殊な関係にある取締役間の馴れ合いにより取締役が他の取締役の責任追及を怠ることを防止する点にあるところ、会社が取締役の責任追求を怠るおそれがあるのは、取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られず、取引債務においてもかかるおそれは存在する。そこで、「責任」には会社と取締役間の取引債務も含まれる。
イ 本件で、BはAに対し本件貸付けの返済債務を負うところ、かかる債務は取引債務であるから、「責任」に含まれる。
⑵甲社はその発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について取締役会の承認を要する旨の定款の定めを設けている「公開会社でない株式会社」(同条2項)であるから(2条5号参照)、甲社の株主は、「六箇月前から引き続き株主を有」していなくても、単に「株主」であれば847条1項の請求をすることができる。
⑶また、Bのかかる請求に自己または第三者の不正な利益を図り又は甲社に損害を加える目的はない(同項ただし書)。
2. よって、Bの上記請求は同項の要件を満たし、Bは甲社に対し上記請求をすることができる。
設問2
1. Dは、甲社に対し、Bに対する責任追及等の訴えを提起するよう請求することができるか。上述の通り、甲社においては保有期間の要件はなく、Bに図利加害目的はないことから、Bが甲社に対し、「責任」を負っていればかかる請求はできるところ、Bは甲社に対し本件においては423条の責任を負っているか。
⑴Aが甲社取締役会の決議を経ることなく甲社を代表してBの借入金債務を免除したという事実は、直接取引(356条1項2号)に当たり、甲社に損害を与えたため、「任務を怠った」と言えないか。
Bは甲社の「取締役」である。
「ために」とは、直接取引と間接取引(同項3号)の区別を容易にするために、名義を意味するところ、甲社と取引をしているのはB個人であるため、「ために」と言える。
「取引」とは会社に不利益が生じるおそれのある法律行為を言うところ、取締役・会社間の契約だけでなく、単独行為(形成権の行使)による取締役への利益供与も含まれる。本件債務免除により、Bは支払い義務を免れ、甲社はBから1億円返してもらえなくなっているため、甲社に不利益が生じており、本件債務免除は「取引」に当たる。
よって、本件債務免除は直接取引にあたる。そして、かかる直接取引により甲社は1億円の「損害」を受け、Bは直接取引をした取締役であるため、「任務を怠った」と推定される(423条3項1号)。そして、かかる推定を覆す事情はない。以上より、Bは「任務を怠った」と言える。
⑵上述の通り、甲社は1億円の「損害」受けており、かかる「損害」とBの任務懈怠には因果関係がある。また、本件はBが「自己のためにした取引」であるから、無過失責任である(428条1項)。
2. 以上より、Bは甲社に対して423条の責任を負っているため、Dは上記請求をすることができる。
以上