6/18/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
広島大学法科大学院2025年 民事訴訟法
第1問
弁論主義とは、判決の基礎となる事実及び証拠の収集提出を当事者側の権能かつ責任とする原則であり、その具体的内容としての事実の提出の場面における原則が主張原則であり、裁判所は、当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることができないとする原則である。
ここでいう「事実」とはいかなる事実を指すかが問題となる。この点、当事者意思の尊重と不意打ち防止という弁論主義の根拠・機能からすれば、訴訟の勝敗に直結する主要事実に弁論主義を及ぼせば十分であり、また、証拠と共通の機能を有する間接事実・補助事実にまで弁論主義を及ぼせば、自由心証主義(民事訴訟法247条)を制約することになるから、「事実」とは、権利の発生・変更・消滅を定める規範の要件に該当する具体的事実たる主要事実に限られると考える。もっとも、過失のような規範的要件については、それを構成する具体的事実に審理が集中するため、かかる事実に弁論主義が適用されないと当事者への不意打ちとなり得るため、規範的要件を構成する具体的事実が主要事実として弁論主義の適用を受けると考える。
第2問
1. 甲土地の所有権がXにあることを確認するXY間での前訴確定判決がある場合において、Yが甲土地の所有権の確認を求めてXを相手に訴えを提起したとき、このような後訴はどのように扱われるべきか。
⑴確定した終局判決には、確定判決の判断内容の後訴での通用力ないし基準性たる既判力(民事訴訟法114条1項)が生じる。
既判力の正当化根拠は、手続保障の充足に基づく自己責任にあるところ、当事者が争った訴訟物については手続保障が与えられていたといえ、これについては自己責任を問える。そこで既判力の客観的範囲は「主文に包含するもの」、すなわち判決主文で示された訴訟物たる権利または法律関係の存否に関する判断に限定される。また、当事者は事実審の口頭弁論終結時までは訴訟資料を提出することができ、かかる時点まで手続保障が及んでいるため、既判力の時的範囲は事実審の口頭弁論終結時である。
⑵本問において、前訴はXY間の甲土地所有権確認訴訟であり、Xの所有権の存在を確認する判決が確定している。したがって、前訴の事実審口頭弁論終結時においてXが甲土地の所有権を有することについて既判力が生じている。
⑶では、後訴に対して、前訴の既判力は作用するか。
この点、前訴と後訴の訴訟物が、同一、先決、矛盾のいずれかの関係にある場合、前訴既判力は後訴に作用すると考える。
後訴は、YX間の甲土地所有権確認訴訟であり、その訴訟物はYの甲土地所有権の存在である。前訴の訴訟物(Xの所有権)と後訴の訴訟物(Yの所有権)は異なるため両者は同一関係にはなく、Xの所有権の存否がYの所有権の存否の前提とはなっていないため、先決関係にもない。しかし、一つの土地について、XとYがそれぞれ排他的な所有権を有することは、一物一権主義との関係であり得ない。したがって、後訴においてYの所有権の存在を認めることは、前訴で確定したXの所有権の存在と論理的に矛盾する判断となる。よって、前訴既判力が後訴に作用する。
2. 以上より、前訴判決の既判力により、後訴において、前訴の事実審の口頭弁論終結時までの事情によって、YがXの所有権の存在を争うこと、及び自己の所有権の存在を基礎づける主張・立証を行うことを許さなくなる。よって、後訴は棄却されるべきである。
以上