4/22/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
明治大学法科大学院2021年 刑法
1. 甲の罪責
⑴甲は、窃盗目的でA店(「建造物」)に侵入しているため、「正当な理由がないのに」「建造物」「に侵入」しているといえ、建造物侵入罪(刑法(以下略)130条前段)が成立する。
⑵金庫の鍵穴に鍵を差し、ダイヤルを回していたが、そこでBに見つかり、金品を持ち出すには至らなかった。この行為につき、窃盗未遂罪(243条、235条)は成立しないか。
ア A店の売上金(「他人の財物」)を、A店支店長の許可なく持ち出すことは、占有者の意思に反して占有移転をする行為であり、「窃取」といえる。
イ では、実行行為の着手(43条本文)は認められるか。
実行行為とは法益侵害の現実的危険性を惹起するものであり、その判断はある行為が当該犯罪の構成要件該当行為に密接な行為であり、かつ、その行為を開始した時点ですでに当該犯罪の既遂に至る現実的危険性があると評価できる場合には、その時点で実行の着手が認められる。
金庫には多額の売上金が入っており、甲はこの事実のほか、ダイヤル番号も知っているを知っている。そのため、甲が金庫の鍵穴に鍵を差し、ダイヤルを回す時点で、すでに金庫の中に入っている売上金が甲により持ち去られる危険性は高いといえる。よって、窃盗罪の構成要件該当行為に密接な行為であり、その行為を開始した時点で、窃盗既遂に至る現実的危険性があると評価できる。
そのため、実行の着手が認められる。
ウ また、「他人の財物」を「窃取」する故意(38条1項本文)も認められる。
エ 甲は金を取ってやりたいと考えていたことから、不法領得の意思も認められる。
オ よって、甲には窃盗未遂罪が成立する。
⑶甲は、Bに窃盗が見つかった際に、逮捕を免れるために、咄嗟にBの机の上にあったハサミをBの腹部に突き刺して逃げ出した。かかる甲の行為は事後強盗傷人罪(240条、238条)が成立しないか。
ア 甲は「強盗」(238条)に当たるか。
(ア)「窃盗」には未遂犯も含まれるので、甲は「窃盗」に当たる。
(イ)「暴行又は脅迫」とは、反抗を抑圧するに足りる暴行又は脅迫をいう。
甲はハサミという刃物を用いてBの腹部という身体の枢要部を突き刺している。これは客観的に犯行を抑圧するに足りる暴行であり、「暴行」に当たる。
(ウ)甲は警察に捕まりたくないと思い上記の「暴行」に及んでいるため、「逮捕を免れるために」「暴行」をしている。
(エ)同罪の趣旨は、財物奪取の手段としての「暴行又は脅迫」と同視できる行為をした者を重く罰する点にあるから、「暴行又は脅迫」は窃盗の機会に行われている必要がある。
甲はA店という窃盗の現場でBに見つかった時に暴行をしている。そのため、窃盗の機会といえる。
(オ)以上より、甲は「強盗」に当たる。
イ Bは甲に刺されたことにより加療2週間を要する腹部刺創という「負傷」を負っているので、「強盗」がB(「人」)を「負傷」させている。
ウ 240条の趣旨は人身の保護にあるから、負傷結果が発生した時点で既遂となる。
エ 以上より、甲に強盗傷人罪が成立する。
⑷以上より甲には①建造物侵入罪、②窃盗未遂罪、③強盗傷人罪が成立し、②は③に吸収され、①と牽連犯(54条1項後段)となる。後述のように、①②の限度で、乙と共同正犯(60条)となる。
2. 乙の罪責
⑴乙に建造物侵入罪、窃盗未遂罪、強盗傷人罪の共同正犯(60条)が成立しないか。
ア 甲と事前に建造物侵入罪と窃盗罪について共謀している。
もっとも、乙は犯行前に恐くなり、「体調が悪いので一緒にA店に盗みに入ることはできない」と離脱意思を表明している。この場合、乙は甲の行為について責任を負うことになるか。共犯関係からの離脱が問題となる。
共同正犯の処罰根拠は法益侵害に因果性を及ぼす点にある。それゆえ、自己の関与行為の因果性が遮断されれば、共同正犯からの離脱が認められる。
イ 乙は甲に日曜日の閉店後にはA店の事務室の金庫に多額の売上金が入っていることや金庫のダイヤル番号を伝えている。こうした情報は犯行を遂行するために不可欠な情報であり、甲はその情報に基づいて犯行に及んでいる。それにもかかわらず、乙は格別の措置を講ずることなく犯行から離脱する意思を表明している。そのため、物理的、心理的因果性を遮断できているとは言えない。
ウ したがって、共犯関係からの離脱は認められない。
⑵甲はBの腹部を腹部で突き刺しているが、こうした行為も共謀に基づく実行行為といえるか。
ア 共謀に基づく実行行為とは、共謀の因果性が実行行為に及んでいる場合に認められ、因果性が及んでいるか否かは、共謀の危険実現の範囲内の実行行為であるかにより判断するべきである。
イ 建造物侵入窃盗をする際に誰かに見つかり、逮捕を免れるために暴行を加えることは特異的な行動ではなく、窃盗行為と関連する行為である。そして、甲は窃盗を試みた現場であるA店の事務所にて、A店の経営者であるBに暴行を加えている。窃盗を試みた現金の占有がBにあることも考えれば、被害者も同一といえる。よって、共謀の危険実現の範囲内の実行行為であり、共謀の因果性が及んでいる。
ウ よって、共謀に基づく実行行為である。
⑶ そうすると、乙については、建造物侵入、窃盗罪の故意で強盗傷人罪も実現しているため、抽象的事実の錯誤が問題となる。そして、乙には強盗傷人罪の故意がないから、強盗傷人罪は成立しない。よって、事後強盗傷人罪は成立しない。他方、建造物新有罪、窃盗未遂罪の故意は認められるから、この範囲で共同正犯となる。
⑷ 以上より、乙は建造物侵入罪の共同正犯、窃盗未遂罪の共同正犯となり、両罪は牽連犯となる。
以上