4/20/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
日本大学法科大学院2023年 刑法
1. 甲がVの頭部を洗面器及び革バンドで5回殴った行為について、傷害致死罪(刑法(以下、法令名略)205条)が成立しないか。
⑴ア 「傷害」とは、人の生理的機能を害する行為をいう。
イ 甲は、洗面器という比較的硬度のある道具及び革バンドという鞭に類似する道具を用いて、人の枢要部たるVの頭部を5回殴っており、かかる行為は人の生理的機能を害する行為といえ、「傷害」にあたる。
そして、Vは上記行為により転倒して後頭部をA組飯場のコンクリート床に打ち付けて意識を消失しており、「傷害し」たといえる。
⑵ア Vは結果的に死亡しているところ、甲の上記行為に「よって」Vが「死亡」したといえるか。Vは、甲によってB港に運ばれた後、死亡に至る前に、第三者により、その頭頂部を角材により数回殴られるという介在事情があるところ、因果関係の存否が問題となる。
イ 因果関係は、偶発的な結果を排除し、帰責の範囲を適正なものにするために求められるものである。
したがって、条件関係の存在を前提に、実行行為に含まれる危険が現に発生した結果に現実化したといえる場合に因果関係は肯定される。
そして、介在事情がある場合には、①行為の危険性の大小、②介在事情の異常性の大小、③介在事情の結果への寄与度を考慮して判断する。
ウ まず、甲の上記行為がなければ、Vは死ぬことはなかったといえ、条件関係は肯定される。
たしかに、Vは、第三者により、その頭頂部を角材により数回殴られているところ、かかる介在事情は異常性が高いものである。しかし、第三者による当該暴行はVの死亡を幾分か早めるものに過ぎず、Vの死亡結果への寄与度はそこまで高いものでない。また、上記のとおり、第三者の行為のVの死亡結果への寄与度がそこまで高いものでないことからすると、甲の上記行為が結果へ直接の寄与をなしているといえ、甲の行為の危険性は極めて高いといえる。
よって、甲の上記行為に含まれる危険が現に発生したVの死亡結果へと現実化したと評価できる。
したがって、甲の上記行為に「よって」Vが「死亡」したといえ、因果関係が認められる。
⑶なお、甲には、上記行為当時少なくとも、傷害致死罪の基本犯たる暴行罪(208条)の故意(38条1項本文)が認められるから、その結果的加重犯たる傷害致死罪の主観的構成要件も充足する。
2. 以上より、甲の上記行為には、傷害致死罪1罪が成立する。
以上