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2023年 刑事訴訟法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑事訴訟法 神戸大学大学法科大学院【ロー入試参考答案】

7/22/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

神戸大学大学法科大学院2023年 刑事訴訟法

第1小問(1)

1. ①の録音は適法か。

⑴ ①の録音について令状が発布されていないため、強制処分(刑事訴訟法197条1項但書)にあたるならば、令状主義または強制処分法定主義に反し違法となる。では、①は強制処分にあたるか。

ア 強制処分は厳格な手続に服するため、ある程度限定して考える必要がある。そこで、強制処分とは、相手方の明示または黙示の意思に反し重要な権利利益を実質的に侵害・制約する処分をいう。

イ 本件では、通話の一方当事者自身であるVがPの依頼を受け、Yとの通話を録音している。
 この点、Yは官憲の依頼により通話が録音されていると知っていれば、特殊詐欺の一環であるキャッシュカードを用意するよう依頼する文言を述べなかったはずであり、録音はYの黙示の意思に反する。
 また、このような秘密録音はYのプライバシーを侵害する側面を有することは否めない。しかしながら、本件録音は一方が録音に同意して自らこれを行なっており、いわゆる傍受にはあたらない。また、電話による通話は本来的に相手方が通話を他の者にも聞かせたり、録音することが想定されるものである。その意味で、Yのプライバシーに対する期待は低かった。したがって、Yの重要な権利利益を実質的に侵害・制約するものといえない。

ウ よって、①は強制処分にあたらない。

⑵ もっとも、①の録音は任意処分の限界を超え違法とならないか。

ア 任意処分であっても一定の人権制約が予定されるため、捜査比例原則(197条1項本文)に服する。具体的には、捜査の必要性・緊急性なども考慮したうえ具体的状況のもとで相当と認められる場合のみ、捜査は適法となる。

イ 本件の事件は、以前から被害が相次いでいるX及びYによる詐欺事件であり、重大事件である。XとYは本件のような手口で詐欺を繰り返していたものの、Pは決定的な証拠を掴むことができず、捜査は難航し、録音により証拠収集する必要性は高い。また、本件が連続詐欺事件であることを考慮すれば、被害の拡大を防ぐべく早期に証拠収集する緊急性も高い。よって、①の必要性は高いといえる。
 たしかに、①はYの意思に反しその会話の秘密を侵害するものである。しかし、前述のような誰に聞かれるかわからない電話での通話という会話の性質を考えれば、その要保護性はそれほど高いと言えない。したがって、上記必要性に照らし相当性を欠くものと言えない。

ウ よって、任意処分として適法である。

⑶ 以上、①は適法である。

第2 小問(2)

1. ➁の供述調書の証拠能力は認められるか。

⑴ ②の供述調書は「書面」(320条1項)にあたり、証拠能力が認められないのでないか。

ア 伝聞法則の趣旨は、供述証拠には知覚・記憶・表現・叙述の各過程を経るものであるところ、その各過程に誤りや虚偽が含まれる恐れがあり、公判廷での吟味が必要な点にある。そこで、「書面」とは、公判外供述を内容とする証拠で、当該公判外供述の内容の真実性を証明するために用いられるものをいう。

イ まず、②の供述調書はVの公判外供述を内容とする。
 本件で②の要証事実はXの犯人性である。②の内容はVが聞いたXからの通話内容である。XがVに対し、通話で「銀行口座から預金が不正に引き出されている。被害を防止するため、この後、金融庁職員Yから連絡するから、その指示通りにキャッシュカード等を提出するように。」と述べた事実は、Xの犯人性の直接証拠になる。そのため、Vの供述内容の真実性は問題になる。

ウ よって、②は伝聞証拠にあたる。

⑵ そして、本件で、Xは同意(326条1項)していない。

⑶ もっとも、②は伝聞例外として証拠能力が認められないか。

ア ②は警察官であるPがVの供述を録取した書面であるから、321条1項3号の該当性を検討する。

イ 本件で、Vは認知症が進行し、事件当日のことを思い出せなくなっており、「精神」「の故障」のため「供述することができない」といえる。また、逮捕されて以来、Xは犯行を否認し、Yは黙秘を貫いており、Xからの通話を立証する証拠は他にないので、「供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」といえる。さらに、➁の書面はVはXからの通話からわずか約1時間後に録取された者であり、「特に信用すべき情況」もあるといえる

ウ よって、②は伝聞例外にあたる。

⑷ しかしながら、②にはXの供述も含まれている。その内容の真実性も問題となり、324条1項の要件をも具備しない限り証拠能力が否定されないか。

ア 「銀行口座から預金が不正に引き出されている。被害を防止するため、この後、金融庁職員Yから連絡するから、その指示通りにキャッシュカード等を提出するように。」という通話内容について、Xの犯人性立証には、Xが実際にそのようなことを述べたことが問題なのであって、実際に銀行口座から預金が不正に引き出されているかどうかといった内容の真実性は問題でない。

イ よって、Xの供述過程は問題とならない。

⑸ 以上、②の証拠能力は認められる。

以上

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