12/26/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2022年 刑事訴訟法
問1
体内の異物を強制採取するということは、被処分者の体内から証拠物を発見及び取得することを目的とするものであるから、捜索差押許可状(刑事訴訟法(以下略)218条1項)が必要である。もっとも、嚥下物を強制採取するような行為は、被処分者に対し、多大な負担を及ぼす恐れがある。加えて、身体的に生理的・機能的な変化を生じさせて、その影響は相当程度長く存する可能性がある。
そのため、被疑者の人権を保障するという必要性から専門的知識・技術を有する者による慎重な手続を要するとして、鑑定処分許可状(225条3項)を併用することが求められる。
問2
問題文記載の決定要旨によれば、内視鏡挿入を許容するための疎明すべき資料として、暴れるリスクを避けるための鎮静剤や下剤投与の旨、またそれでは足りず、いかなる器具を利用するか、どの程度の時間挿入を続けるのか、身体に及ぼすリスクの程度等を必要としている。
このように、裁判所が以上の考慮要素を疎明資料として要していることに鑑みれば、鎮静剤を十分に準備せずに内視鏡挿入を行うことや、医師の適切な指導の下に適切な器具と時間で行う努力を怠り、不適切な器具や不当な長さでこれを行うこと、また身体に及ぼすリスクが得られる証拠に比して重大に過ぎるにもかかわらずこれを行うような場合が考えられる。
問3
最高裁昭和55年の判決によれば、強制採尿が許される場合の考慮要素として、適当な代替手段の不存在という要素を上げている。
これは強制採尿という処分が被処分者の身体や精神に対して大きなダメージを与えうるものであるから、比例原則(憲法13条参照)に反するなどの恐れがあり、これを適法な手段として認めるためには他に実効的な手段がなく、強制採尿を行うことがやむを得ないと言えるような事情を求めるという点にその意義がある。
そして、前述の嚥下物は下剤や内視鏡挿入等の一定の作為をもってその差し押さえをなす必要があるところ、尿に関しては相手方に対し多大な損害を与えうる手段を用いなくとも、相手方を説得することにより尿を任意提出してもらうことも可能である。
そのため、強制採尿が許されるには相手方に対する十分な説得の下、これを拒否するならばカテーテル等による強制採尿もやむなしである旨を適切に伝えるなどし、相手方が翻意し任意提出を行うよう努めることを要する。仮に相手方が拒否を貫いたとしても、捜索差押許可状に218条6項を準用し、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせるべきことを令状に明示することで、医師によって相手方の人権に配慮した慎重な手続きの下に行われることが必要である。
問4
1. 刑事訴訟法に規定のない種類の強制処分を認めるために、裁判官が新たな令状を作り出すことは許されない。なぜならば、それを許せば、実質的に裁判官に対して新たな強制処分を認める立法を委ねることと同義になり、立法府が有するべき立法権を司法権が侵害することになり、ひいては三権分立原則に真っ向から反することになるためである。
この点、GPS捜査の適法性が問題となった判例においても、GPS捜査が検証令状によって全て包含される性質ではないことを摘示したうえで、これらの問題を解消する手段としてどのような手段を選択するかは、第1次的には立法府に委ねられている旨を述べている。
2. では、令状に裁判官が適当と考える条件を付した令状を発布することは許されるのか。
この点、上記判例は、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、事案ごとに多様な選択肢の中から、的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制処分を認めることは、強制処分法定主義(197条1項)の趣旨に反する旨述べている。実質的に考えても、全く刑訴法に想定のない強制処分を行わせる為に、令状裁判官が既存の令状に様々な条件を付すことによってこれを認めることは、裁判官による強制処分を許す立法を認めることと同義になることは否定しがたい。
しかし、条文上当該強制処分を令状を発付することで行うことが認められている場合において、条件を付すことはあくまでかかる権限の存在を明確化したに過ぎないと捉えるのであれば、法解釈の域に留まると解することができるから、特定の令状に裁判官が条件を付すことは許されると考えられる。
上述のとおり、判例は強制採尿を許可する場合には捜索差押許可状に218条6項を準用して、医師をして相当と認められる方法によることを義務づける旨の条件を付すことで対応しているのであり、このように令状裁判官に条件の選択を強いるものでない処分において令状に条件を付すことを判例は排除していないと考えられる。
以上