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2022年 商法・会社法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2022年 商法・会社法 九州大学法科大学院【ロー入試参考答案】

10/23/2023

The Law School Times【ロー入試参考答案】

九州大学法科大学院2022年 商法・会社法

問題1

 取締役は、会社に対して善管注意義務(会社法(以下略)330条・民法644条)を負うところ、これに違反する場合には、取締役の会社に対する責任を規定する423条1項にいう「任務を怠ったとき」にあたる。いわゆる経営判断原則は、かかる善管注意義務違反の有無を判断するために判例上生み出された法理である。
 事業経営は必然的にリスクを伴うから、経営判断の結果として会社に損害が生じた場合に常に善管注意義務を認めると、取締役の経営判断に萎縮が生じるため、会社株主の利益を害する。そこで、将来予測にわたる経営上の専門的判断が必要とされる事項については、取締役の広い裁量が認められ、その判断の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務に違反しないと解するのが、経営判断原則である(アパマンショップ事件、そごう事件)。「著しく不合理」かどうかは、経営判断がなされた当時における、当該会社の属する業界の通常の経営者が有すべき知見・経験を基準に、これを著しく下回っているかどうかによって判断する。

問題2 設問1

1. 甲社の「株主」は、本件募集株式の発行が「法令(略)に違反する」として、募集株式発行差止請求(210条1号)、及び差止めの仮処分の申立(民事保全法23条2項)をする。
 まず、甲社は公開会社(2条5号)であるところ、有利発行(199条3項)に当たらない限り本件においては、取締役会決議で募集事項を決定できる(201条1項前段・199条1項・2項)。

2. もっとも、Aは、取締役であるDに取締役会の招集通知(368条1項)を発さず、A・B・Cと監査役にのみ招集通知を発し、A・B・Cと監査役の出席のもと、本件募集株式の発行につき決議をしている。そのため、取締役会の決議に手続上の瑕疵がある。では、瑕疵ある取締役会決議の効力は認められるか。

 ⑴ 招集通知漏れのある取締役会決議は、私法の一般原則に従い、原則として無効である。ただし、法的安定の要請に照らし、招集通知を欠く取締役が出席しても決議の結果に影響がないと認められる特段の事情がある場合には、当該決議は例外的に有効と解する。

 ⑵ 本件で、募集株式の発行の件については、CとDが反対しており、仮にDが出席していればDは反対の議決権を行使したはずである。とすれば、仮にDが出席していた場合、A・Bが賛成したとしても、2/4の賛成しか得られず、出席した取締役の過半数の賛成が得られないことになり、否決されたはずである(369条1項参照)。
 よって、決議の結果に影響がないと認められる特段の事情はない。

 ⑶ したがって、原則どおり、本件決議は無効であるから、有効な取締役役会決議を経ていないという法令違反がある。

3. また、甲社は発行可能株式総数50万株のうち30万株を発行済みであるところ、本件募集株式の発行により5万株が発行されれば、既存株主の経済的価値維持の利益が低下するという不利益が生じる。
 よって、「株主が不利益を受けるおそれがある」といえる。

4. そして、仮処分が認められるには、保全の必要性が認められる必要がある。
本件では、6月9日に役会決議がなされており、本件募集株式の発行にかかる払込期日はそのわずか16日後である6月25日であるところ、保全の必要性も認められる。

5. 以上より、裁判所は、上記差止の仮処分の申立について、本件募集株式の発行を差し止める旨の決定をなすべきである。

問題2 設問2

1. 甲社の「株主」(828条2項2号)は、「効力が生じた日」である6月25日から「6箇月以内」(828条1項2号)に、甲社を被告(834条2号)として、新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起できる。

2. 前述の通り、有効な取締役会決議を経ずに新株を発行したという法令違反があるが、この点は新株発行無効の訴えにおける無効事由になるか。

 ⑴ 取引安全の要請から、新株発行の無効事由は重大な瑕疵に限定するべきである。そして、公開会社では新株発行は原則として取締役会決議を得れば行えるため、業務執行に準じる行為である。そのため、取締役会決議は代取の権限行使の内部的要件に過ぎない。加えて、募集事項が公告されていれば、株主には新株発行までに差止を請求できる。そこで、取締役会決議を欠いていたとしても代取が新株発行を行ったのであれば、新株発行は無効にはならないと解するべきである。

 ⑵ 本件では、代取であるAが新株発行を行っている。そして、募集事項の公告も行われているため、株主には差止の機会が与えられている。したがって、重大な瑕疵があったとまでは言えない。

 ⑶ よって、無効事由はない。

3. 以上より、裁判所は、原告の請求を棄却するとの判決をすべきである。

以上

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