5/12/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2025年 民事訴訟法
設問1
1. 本件で当事者は誰か。
2. 当事者は、訴状の送達(138条)、人的裁判籍(4条以下)、除斥原因(23条)の基準となるから、訴状受領時に判断する必要があるし、既判力の範囲を画する(115条1項)から、明確である必要もある。そこで、訴状の当事者欄(134条2項1号)の記載を基準とする。もっとも、民事訴訟は私的紛争の解決を目的とし、訴訟の追行は実体法上の権利処分と同様の結果をもたらすから、訴状の一切の表示を合理的に解釈して、当事者を確定する。
本問で訴状に被告として記載されているのは、「甲株式会社 上記代表者A」である。請求の趣旨及び原因から特定するに、賃貸借契約に基づく明渡請求及び賃料支払請求は、賃貸借契約の相手方であるY社に対する請求と考えられる。この様な義務を負うのは、訴状において賃貸借契約の相手方とされるY社であって、問題となっているのはY社の義務である。
3. よって、被告はY社である。
設問2
1. まず、後訴において、Zが建物明渡請求との関係では、YはXとの関係で賃借権を失っておらず、ZはYから有効な賃借権を承継したと主張することは、既判力に抵触し排斥されないか。
⑴既判力は、「主文に包含するもの」(114条1項)につき生じる。これは、紛争の蒸し返し防止に必要十分な範囲である訴訟物の存否についての判断をいうと解する。
本件では両請求の全部認容判決がされているから、本件前訴の既判力は、XのYに対する賃貸借契約解除に基づく建物明渡請求権が存在するという判断につき生じる。
⑵既判力が生じると、前訴事実審口頭弁論終結時における訴訟物の存在又は不存在の判断に矛盾抵触する後訴当事者の主張ないし裁判所の判断を排斥するという機能が前訴当事者間において営まれる。
後訴の訴訟物の一つは、所有権に基づく返還請求権としての建物明渡請求権であり、訴訟物は同一であるから、前訴の既判力は後訴に作用する。また、「口頭弁論終結後の承継人」Zにも既判力は及ぶ(115条1項3号)。
そうすると、前訴でXのYに対する建物明渡請求権が存在するという判断に既判力が生じている以上、ZはYから有効な賃借権を承継したと主張することは、前訴の判断に矛盾する当事者の主張として、排斥される。
2. 次に、賃料支払請求との関係ではYに未払い賃料があるのは認めるが、それはXY間の問題であり、Zは本件訴訟で認められた賃料債務の債務者ではないという主張は認められるか。
⑴既判力は「当事者」(115条1項1号)間に生じるから、本問ではXY間に判決の効力が及ぶのが原則である。
⑵ここで、Zは「当事者」ではないが、「当事者」たるYの「口頭弁論終結後の承継人」(115条1項3号)に当たれば、前訴の判決の効力が及ぶ。明渡義務が問題となった上述の場面とは異なり、ただちにZを「承継人」にあたると断じることはできず、「承継人」の意義が問題となる。
既判力は、「当事者」(1号)のみに及ぶのが原則であり、例外的に、「承継人」に拡張を認めるのは、代替的手続保障が及んでいることを前提に、紛争解決の実効性を確保するためである。そこで、「口頭弁論終結後の承継人」とは、既判力を拡張することで、紛争解決の実効性を確保できる者、すなわち、紛争主体たる地位を承継した者をいうと解する。このように解しても、基準時後に承継人が取得した固有の抗弁は、既判力の拡張の有無にかかわらず主張できるから、実質的にも問題はない。
本問において、前訴判決が確定した後に、Yは新会社Zを設立し、代表者、本店所在地ともYと同一の新会社Zを設立した上、会社の営業設備一切をZへ無償で譲渡し、Y会社の従業員も引継ぎ、本件建物の占有もZに承継している。そして、Y社は有名無実の存在となっており、Y社はZ社に権利義務関係をすべて引き継ぎ自らは債務を免れる意図でZ社を設立していると評価できるから、Zは実体法、未払い賃料を支払うべき義務者としての地位についたといえる。よって、ZはYから紛争主体たる地位の移転を受けたといえる。そのため、「承継人」にあたる。
⑶したがって、Zにも前訴確定判決の効力が及ぶから、Zの上記主張は認められない。
以上