6/2/2025
The Law School Times【ロー入試参考答案】
北海道大学法科大学院2024年 商法
問1
1. 本問における退職慰労金の支払いは違法ではないか。
⑴まず、退職慰労金は「報酬等」(会社法(以下略)361条1項)にあたるか。
そもそも、同条の趣旨はお手盛り防止にある。確かに、退職慰労金決定では退職取締役は取締役会に参加できない以上お手盛りの危険はない。もっとも、残存取締役が先例・慣行として報酬を高く設定することで自分達に有利になることを期待するというお手盛りに準ずる危険はある。ゆえに、そのような報酬後払的性格にも鑑み、退職慰労金は「報酬等」に含まれると解する。
⑵では、株主総会決議によって退職慰労金の支払いを取締役会に一任することは適法か。
ア 確かに、同条の趣旨であるお手盛り防止の実効性を担保するために株主の自主的な判断に委ねることは必要である。しかし、特定の事業年度の取締役の数は限定されており、株主総会でその上限額を定めれば特定の取締役の退職慰労金額が事実上明らかとなり、これを知られたくない退任取締役の意思に反する。また、施行規則82条2項は、取締役の報酬決定について、取締役へ一任できることを前提とした規定である。
イ そこで、①慣行や内規により一定の支給基準が規定されており、②その支給基準を株主が把握することができ、③支給基準で定める額の範囲内において相当な額を支払う場合は、決議は有効であり、取締役への一任が認められると解する。
⑶本件では、退職慰労金の額を算定する内規が規定されており(①)、 退職慰労金の額1000万円は内規の算定基準から決められており、相当である。(③)。
2 よって、内規で定めた算定基準を株主が把握できるような状況であれば、本件支払いは適法である。
問2
1 新株発行の募集事項の決定機関は、原則として公開会社(2条5号)では取締役会であり (201 条 1 項)、非公開会社(2条17号)では株主総会である(199 条 2 項)。
2 ⑴新株発行について、公開会社では、株主にとって、自身の持株比率より株式の市場での評価が重要である。したがって、重要な資金調達手段である新株発行については、経営の専門家である取締役から構成される取締役会によって迅速に決すべき要請が強いといえる。
⑵一方で、非公開会社は、公開会社と比較して株主が直接経営に関わる場合が多く、会社の支配権に関わる持株比率の維持への関心が高い。よって、既存株主の利益保護のため、本決定は株主の自主的な判断に委ねるべきである。また、非公開会社では新株発行無効の訴えの提訴期間の伸長(828条1項2号括弧書き)が法定されていることから当該決定の迅速さへの要請の程度は低い。よって、株主総会で慎重に決するべきである。
以上