2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
岡山大学法科大学院2023年 公法系
1. 本件校則は、男子生徒の髪型の自由(以下、本件自由とする)を侵害し、違憲ではないか。
⑴ 髪型は、特殊な例を除き、思想等の表現であるとはいえず、特に中学生において髪型が思想等の表現であるとはいえないから、髪型の自由は「表現の自由」(憲法(以下、法令名省略)21条1項)としては保障されない。
もっとも、髪型の自由は13条後段によって保障されないか。
13条後段は、個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする「幸福…追求…権」を保障している。ここで、髪型の自由は、憲法上の自律権の核に関わるものと見ることは困難で、その周辺部に位置するものにすぎず、憲法上保障されないとする見解が想定できる。しかし、髪型や服装などの身仕舞いを通じて自己の個性を周囲に示すことは、精神的に成熟途上にある青少年の人格形成にとって重要な自由であり、髪型の決定はおよそ個人の自由な選択に委ねられるべき問題であるから、本件自由は、個人の人格的生存に不可欠な利益である。
したがって、髪型の自由は13条後段の「幸福…追求…権」として保障される。
⑵ 本件校則に違反すると、男子生徒の髪型について、病気など特段の事情がある場合を除 き、頭髪の長さを1cm 以下の丸刈りとし、学校長は、これに違反する生徒に対して適切 な指導を行われることになるから、男子生徒の髪型の自由を制約している。
⑶ 人格的自由は個人にとって最重要なものであるから、違憲審査基準については表現の自由に準ずる厳格な基準を採用すべきであるとする見解が想定できる。しかし、自己決定の対象が多様なことを考慮すれば、一律に厳格な基準で判断するのは妥当ではない。髪型を通じて自己の個性を周囲に表現することは、精神的に成熟途上にある未成年の人格形成にとって重要である。また、本件校則に違反すると男子生徒の頭髪の長さが1cm以下となり、髪型を変化させることが困難になるから、本件自由に対する制約は強度である。さらに本件校則は、未成年である中学生生徒の非行を防止し、その保護を目的とするパターナリスティックな制約であるところ、未成年は大人への成長過程にあり、その成長のために何が自己の利益になるのかは失敗などを通じて未成年自身が判断すべきであるから、本件校則は本件自由を強度に制約するものである。一方、公立中学校における髪型の自由の制限ついては、自己表現の要素があることは否定でいないものの、学校内での規律という特別な理由から髪型の規制が必要な場合がありうる。
そこで、中間基準を採用すべきである。すなわち、①目的が重要であり、②手段が目的との実質的関連性を有する場合には、合憲となる。
本件校則の目的は、生徒の非行を防止し、中学生らしさを保たせ地域社会の人々との関係を円滑にするなどの教育目的である。非行を防止するという点はパターナリズムに基づくところ、中学生は外部からの刺激に影響を受けやすいため、髪型に現れた非行の兆候を規制し、あるいは非行への願望を抑止し、それによって本人の進路を是正することは重要である。(①充足)。また、手段は男子生徒の髪型についてのみ丸刈りとするものであり、中学生らしからぬ過度に派手な髪型を防止するとともに周囲の人々に威圧感を与えない点で、上記目的を達成することを促進するものといえ、手段適合性は認められる。しかし、丸刈りを強制することは髪型の自由を一切認めないものであり、得られる利益と失われる利益の均衡を欠くため、手段が目的との実質的関連性を有するとはいえない(②不充足)。
したがって、本件校則は、13条後段に反し違憲である。
2. 本件校則は、男子生徒についてのみ丸刈りを強制する点で、男子生徒を女子生徒との関係で差別するものとして、14条1項に違反するのではないか。
⑴ 「法の下」の平等には、法適用の平等だけでなく、法内容の平等も含まれる。そして、「平等」(14条1項)とは、合理的理由のない差別を禁止する相対的平等を意味する。
本件では、男子生徒が女子生徒の関係で髪型の決定という点で平等に扱われるという意味で「平等」権が認められる。
そして、本件校則は、男子生徒を女子生徒との関係で上記点につき「差別」している。
⑵ では、上記「差別」は、合理的な理由に基づくといえるか。
そして、14条1項後段列挙事由に基づく差別的取り扱いは、原則として不合理であることが推認されるため、厳格に審査すべきであるとの見解がある。かかる見解によると、本件校則は、男子生徒のみ丸刈りを強制する点で、「性別」に基づく差別的取り扱いであるため、その合憲性は厳格に審査されることになる。しかし、判例は、14条1項後段列挙事由は例示的なものであり、特別な意味を有するものでないとしている以上、差別の不合理性についてはあくまでも事柄の性質に即して判断すべきである。
男子生徒が髪型を自由に決定できる地位は、精神的に成熟途上にある未成年の人格形成にとって重要である。一方、本件校則の内容をどのようなものにするかについては、学内の秩序を維持すべき立場にあるA中学校の学校長の裁量に委ねられる。もっとも、本件校則は、男子生徒の髪型の自由を強度に制限するものである以上、その裁量は限定的に考えるべきである。
そこで、①目的が重要であり、②区別と目的との間に実質的関連性がある場合には、上記「差別」は合理的理由に基づくとして合憲になる。
⑶ 本件校則の目的は、上記の通り重要である(①充足)。もっとも、男子生徒と女子生徒とを髪型の点で区別しても、生徒の非行防止を促進するわけではないから、手段適合性は認められない。また、確かに、男子生徒と女子生徒とでは髪型に性差が現れるため、校則の内容も性別によって異なることはありうる。しかし、A中学校においては、すべての生徒について染髪を禁止する校則があるとともに、女子生徒についても髪型を規制する校則はあるものの、女子生徒に係る髪型規制は、丸刈りのように特定の髪型を指定するものではない。そうだとすると、本件校則は男子生徒のみ丸刈りのように特定の髪型を指定する点で目的との間の実質的関連性があるとはいえない(②不充足)。
したがって、本件校則は、合理的理由のない差別であり、14条1項に反し違憲である。
以上