7/22/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
神戸大学大学法科大学院2023年 民法
第1問
1. XはYに対し、所有権に基づく返還請求権として乙収去及び甲の明渡しを請求するが、これが認められるか。
2. 上記請求の要件は①自己所有及び②相手方占有であるところ、Xは競売により甲土地の所有権を有し、Yは甲土地上の乙を所有することで甲土地を占有しているため、要件を満たす。
3. 一方、Yとしては、法定地上権(民法338条)の成立を主張し、甲土地につき占有権原がある旨主張すると考えられる。
⑴ 法定地上権の要件は、ⅰ抵当権設定当時に土地の上に建物が存在すること、ⅱ抵当権設定当時、土地と建物が同一人の所有に属すること、ⅲ土地・建物の一方または双方に抵当権が設定されていること、ⅳ土地または建物の競売がなされ土地と建物の所有者が別々になったことである。
⑵ 本件では、ⅰ.ⅲ.ⅳの要件は充足する。もっともⅱについて、甲土地に1番抵当権が設定された当時は土地はY、建物はBのものであり、所有者が異なっていたものの、2番抵当権設定時には土地建物は両方Yのものになっていた。そのため、このような場合にもⅱの要件を満たすことになるのか、問題となる。
⑶ この点、先順位抵当権設定時に土地と建物の所有者が異なり、後順位抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一である場合に法定地上権を成立させてしまうと、法定地上権の成立は無いと期待して抵当権を設定した先順位抵当権者に対して、土地が底地として評価を受け抵当権の価値が低下するという不測の損害を与えることとなる。もっとも、先順位抵当権が既に弁済により消滅しているような場合には、先順位抵当権者が不利益を受けることはなく、一方で抵当権設定時に建物と土地の所有者が同一であった後順位抵当権者は先順位抵当権の消滅などにより法定地上権が成立しうることを考慮して土地の評価を行うことができるから、法定地上権の成立により不測の不利益を被るとはいえない。
⑷ そこで、先順位抵当権が既に消滅しているなど、先順位抵当権者の利益を考慮する必要が無いといえるような特段の事情が存在する場合には、後順位抵当権設定時に土地建物の所有者が同一であることによりⅱの要件が充足すると考えるべきである。
⑸ 本件では、1番抵当権者Aに対する債務は完済しており、Aの1番抵当権は消滅している。そのため、1番抵当権者たるAの利益を考慮する必要はなく、特段の事情が認められる。よって、Cの2番抵当権設定時に乙建物と甲土地がYの所有であることにより、ⅱの要件を充足し、法定地上権が成立する。
4. よって、Yによる占有権原の抗弁は認められ、上記請求は認められない。
第2問
小問(1)
1. C及びDそれぞれの親であるEF及びHは、A又はBに対し、民法717条の工作物責任による損害賠償請求権をC及びDの死亡により相続した(民法882条、889条1項1号、896条)として、これを請求することが考えられる。
2. 上記717条に基づくC及びDのBへの請求の要件は、①「土地の工作物」であること、②土地の工作物設置・保存の瑕疵によること、③その土地を所有していること、④占有者が存在する場合は、その者に免責事由がないことである。
3. (1) この点、工作物の設置・保存の瑕疵とは工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。本件ため池は、土地に接着した「工作物」である(①充足)ところ、本件ため池は、そこに人が落ちれば溺れるなどして死亡事故が生じうる危険性のある場所であり、住宅地に隣接した場所にあって様々な人が付近に近づくことが予想される場所でもあるから、付近に近づいた子供を含む人々がため池に転落しないような安全性を通常有すべきものといえる。
(2) 本件ため池の周囲の2箇所には、「すべりやすくキケン ちかづいてはなりません!」との掲示板が立てられており、一応池付近の危険性を示す表示をして、転落事故を防止する策を採っている。しかし、2箇所しか掲示板はなく、他に柵を立てることで侵入を防止するような方法はとられていない。そうすると必ずしも掲示板に気付くとは限らず、その指示に従うとはいえない子供達がため池に入り転落事故が起こることは十分ありうる。したがって、本件ため池は、通常有すべき安全性を有していたとはいえず、「瑕疵」が認められる(②充足)。
4. Bは、本件ため池を含む甲土地を所有しており、➂を充足するが、甲土地の登記名義人にすぎないAも所有者といえるかが問題となる。
この点、工作物責任は、原則として現に所有する者に対してなされるべきであるが、相手方の実質的所有者の探求の困難を考慮し、①土地所有者が自らの意思に基づいて登記を具備した場合には、土地を譲渡したとしても②引き続き登記名義を保有する限り譲渡により所有権の喪失を主張することはできないと考える。
したがって、引き続き登記名義人であるAは甲土地の所有権喪失を主張できず、所有者にあたると考える。
5. 本件で他に甲土地を占有するものは認められないから、④の要件は不要である。
よって、A,Bに対する請求は認められる。
6. そのほか、EFHは、生命を侵害されたCDの「父母」として、711条に基づく遺族固有の慰謝料請求ができ、弟のGも後述の通り711条類推による請求が可能である。
小問(2)
1. 損害の内容としては、C及びD自身が受けた精神的損害に対する慰謝料及び逸失利益が考えられる。
⑴ もっとも、死者たるC及びDは請求権の主体となれないとして、EFHは上記逸失利益
及び慰謝料の請求権を相続できるかが問題となる。
ア この点、傷害の場合には認められるのに、それより重い死亡の場合には認められないのでは均衡がとれないうえ、慰謝料の額が被害者救済の額として不十分な実態から、逸失利益の相続は可能であると解するべきである。
イ また、慰謝料請求権は被害者の一身に専属権(896条但し書き)とも思えるが、請求権そのものは単なる金銭債権であって、被相続人がこれを放棄したといった特段の事情なき限り、相続人は慰謝料請求権を相続すると考える。
⑵ よって、上記請求が内容となるが、逸失利益の額は賃金センサスの平均賃金により算定される。
⑶ また、EFHについては711条により固有の慰謝料請求も可能である。
⑷ もっとも、711条には弟の記載はなく、弟は711による請求はできないとも思える。
しかし、711条の趣旨が重大な精神的損害への慰謝を認める点にあることからすれば、文言記載の親族同様の損害を受ける者にもかかる規定を類推して良い。
これをみるに、弟は兄が死亡すれば大きな精神的損害を受けることは明らかであり、類推可能である。
⑸ よって、弟のGも711条に基づく請求が可能である。
小問(3)
1. 責任の減免として過失相殺の適用が問題となるところ、CDは小学生であり責任能力(714条)に欠けるところ。この場合にも過失相殺が認められるか。
⑴ 722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為責任者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害賠償発生について被害者の不注意をいかに斟酌するかの問題に過ぎないものである。そのため積極的に責任を負わせる場合に前提となる責任能力がなくとも、必要な注意ができる事理弁識能力があれば過失相殺は行えると考える。
⑵ CDは小学生であることから、事理弁識能力の存在は認められる。そして、CDの死亡を引き起こした本件ため池への転落は、本件ため池が危険である旨の掲示板の警告に従わず、より安全に帽子を回収できるであろう大人の手を借りるなどの措置をとらず、不用意にため池に近づいたCDの不注意によるものであるから「過失」があり、過失相殺がなされる。
以上