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2023年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】
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2023年 刑事系 東京大学法科大学院【ロー入試参考答案】

2/29/2024

The Law School Times【ロー入試参考答案】

東京大学法科大学院2023年 刑事系

第1問

第1(小問(1))

1. Jは、Xの緊急逮捕に重大な違法があることを理由に勾留請求を却下したと考えられる。以下、具体的理由を論じる。

⑴ 法は正当な事由なく法定の時間制限を超えてなされた勾留請求を却下しなければならないとする(刑事訴訟法(以下、略)207条5項但書、206条2項)。その実質的な理由は、逮捕には不服申立制度が準備されていないこと及び将来の違法捜査抑止にある。そこで、逮捕手続で制限時間の不遵守に匹敵するような重大な違法があった場合には、裁判所は勾留請求を却下すべきと考える。

⑵ これをみるに、Xは、建造物等以外放火罪の事実で緊急逮捕(210条1項)されている。しかし、緊急逮捕の場合には、逮捕後「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない」ところ、Xは令和3年6月1日午前10時に逮捕されたが逮捕状の請求がなされたのは、その7時間後の同日午後17時であった。また、かかる7時間の間に捜査官KはXの立ち会いを求めて実況見分を行い、警察署に戻った後も取り調べを継続し調書を作成するなどしており、緊急逮捕後直ちに逮捕状を請求できないと認められる特段の事情もない。そして、緊急逮捕は逮捕後に直ちに逮捕状を請求する手続をとることによって憲法35条の令状主義の例外としてかろうじて許容されるものであるから、逮捕後7時間もの間逮捕状を請求しなかったことの違法は重大である。
 したがって、本件では逮捕手続に重大な違法があるから裁判所は勾留請求を却下すべきである。

2. 以上より、Jは緊急逮捕に重大な違法があることを理由として勾留請求を却下したと考えられる。

第2(小問(2))

1. Xを再度、建造物等以外放火罪の事実で逮捕できるか。違法逮捕が先行する再逮捕の許容性が問題となる。

⑴ 法は、被疑事実、すなわち事件ごとに身体拘束の厳格な期間制限を設けているところ(203条以下)、同一の被疑事実については、1回の逮捕勾留のみ許容されるのが原則である。したがって、本件でも、Xを同一の建造物等以外放火罪の事実で再び逮捕することは許されないとも思える。
 もっとも、再逮捕を許さないとなると捜査の流動性が害される。また、刑事訴訟法には、再逮捕を想定している条文(199条3項、刑事訴訟法規則142条1項8号)があり、法は再逮捕で一定の限度で許容しているといえる。
 したがって、例外的に一定の限度で再逮捕が許容されると考える。

⑵ もっとも、本件では先行する逮捕が違法であったという事情がある。そして、逮捕・勾留の期間制限の潜脱防止及び国民の司法に対する信頼確保・違法捜査抑止の観点から、違法逮捕が先行する場合の再逮捕の要件は適法逮捕が先行する場合に比して、厳格に判断しなければならない。そこで、先行する逮捕が違法の場合の再逮捕の許容性は、先行逮捕の違法の程度、逮捕の必要性の程度、犯罪の重大性等の諸要素を勘案し、やむを得ない事由がある場合に限り認められると考える。

⑶ これを本件についてみる。まず、本件における先行逮捕の違法は、緊急逮捕において直ちに逮捕状請求手続をとらなかったというものであり令状主義の見地からかかる違法の程度は大きい。もっとも、上述のとおり、違法逮捕が先行する再逮捕を厳格に判断する理由の一つは将来の違法捜査抑止であるが、本件ではJによってXの勾留請求が却下されており逮捕手続の違法宣言がなされているから、将来の違法逮捕を抑止する要請はすでに一定程度満たされているといえる。
 また、JもXに「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」及び「罪証を隠滅するに足りる相当な理由」が認められると判断しているように、Xには逃亡、罪証隠滅のおそれが認められるし、再捜査の必要もあるからXには再逮捕の必要が認められる。
 加えて、本件における犯罪は、建造物等以外放火罪であるが、かかる犯罪は建造物等以外の物に対する放火によって火の手が人の住居等に及び人の生命身体を脅かす危険があるから放置できない重大犯罪といえる。
 以上より、本件では、先行逮捕の違法は一定程度治癒されているといえるところ、事件の重大性、再逮捕の必要性が認められるから、再逮捕が許容される。

⑷ よって、Xを再度、建造物等以外放火罪の事実で逮捕することが認められる。

第2問

第1(設問)

1. XがYに対して行った一連の行為(Yの腹部を蹴る殴る等したうえ、手拳で顔面を殴打し、転倒したYの腹部を数回殴り続けた行為(以下、「本件行為」という))に傷害罪(刑法(以下、略)204条)が成立しないか。

⑴ Xは、本件行為という不法な有形力の行使によってXを転倒させ脳出血という生理的機能の侵害を惹起し「傷害」を与えている。また、Xには、暴行の故意(38条1項)も認められる。

⑵ もっとも、Xは、YのXに対する攻撃を止めるべく本件行為に及んでいる。そこで、本件行為に正当防衛(36条1項)が成立しないか。正当防衛は、「急迫不正の侵害」に対し、「自己又は他人の権利を防衛するため」、「やむを得ずにした」場合に成立する。

ア まず、「急迫」不正の侵害があったといえるには、違法な「法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていること」を要する。これをみるに、XはYに両手で襟首をつかまれ、背中をビルの壁に数回叩きつけられており法益の侵害が現に存在しているといえるから「急迫不正の侵害」が認められる。

イ そして、「防衛するため」との文言から、正当防衛の成立には防衛の意思が必要になるところ、防衛行為は、その性質上、興奮逆上して反射的になされることが多い。そのため、防衛の意思の内容は、急迫不正の侵害を認識しつつ、これを避けようとする意志で足りると考える。これをみるに、XはYの攻撃を止めようと本件行為をしており、Yによる急迫不正の侵害を認識しつつ避けようとする心理状態であったといえるから、防衛の意思が認められる。よって、「防衛するため」といえる。

ウ そして、「やむを得ずにした」とは、反撃行為が、侵害に対する防衛手段として相当性を有することを意味する。これをみるに、Xは、Yの腹部を蹴ったり殴ったりしたが、Yには効果がなかったことからYの顔面を殴打しており、また素手で暴行してきたYへ素手で対抗するものであり武器過剰性もなく、「やむを得ずにした」といえる。もっとも、Xは、Yが倒れこんで動かなくなった後も腹部を殴り続けておりかかる行為は防衛手段として相当性を有するものとは言えず、「やむを得ずにした」に当たらない。
 したがって、本件行為は、全体として「やむを得ずにした」行為とは言えない。

エ 以上より、本件行為に正当防衛は成立しない。

⑶ よって、本件行為を全体としてみるとXに傷害罪が成立することになる。もっとも、36条2項の趣旨は恐怖・驚愕等による責任の減少にあるところ、侵害終了後も、畏怖、驚愕の心理状態が直ちに解消されずに勢い余って反撃行為が続いてしまう場合があることは十分に考えられる。したがって、Yから突然暴行を加えられXが恐怖心を有していたと考えられる本件でも36条2項の趣旨が妥当するから本件行為は「防衛の程度を超えた行為」といえる。よって、本件では、36条2項が適用され、Xは刑の任意的減免を受ける。

⑷ ここで、上述のとおり、Xの本件行為は全体としてみるとXには傷害罪が成立し過剰防衛となる。しかし、Xの顔面殴打までの行為には上記のとおり相当性が認められ正当防衛が成立するから、本件行為を分断して考えると、Xには顔面殴打行為までの行為に正当防衛が成立し、腹部を蹴った行為に暴行罪(208条)が成立することになる。そのため、本件行為を一体としてみるべきか分断して評価すべきかが問題となる。

ア 行為は、客観面と主観面の統合であるから、複数の行為が客観的に見ても主観的に見ても強い関連性を有する場合には、行為の一体性を肯定するべきである。そこで、防衛行為の一体性は、侵害の継続性、防衛の意思の連続性、暴行態様の変化などを考慮して一連一体の行為といえるかで判断すると考える。

イ これを本件行為についてみるに、本件では、X及びYが互いに立っていた状況下からYの顔を殴打し後ろ向きに転倒させており、その後Xが倒れているYの腹部を殴る行為に出たときにはすでにYによる侵害は終了していた。しかし、XはYが動かなくなったことを認識していたものの、なおも夢中でYの腹部を殴り続けており、Xは積極的にYに加害行為を行い傷害を負わせようとしたものではなく、あくまで防衛の意思で勢い余って暴行を続けてしまったものと考えられる。また、腹部を殴るという行為は、Xによる侵害行為が続いていたときのXの防衛行為と同態様の行為であると共に、倒れたYが起き上がり侵害行為を再開する可能性も存した状況下であり、かかる事実からもXの防衛の意思が連続していたことがうかがえる。

ウ 以上より、本件行為は一連一体の行為といえるから、本件行為を一体として評価すべきである。

⑸ よって、上記のとおり、Xには傷害罪が成立し、36条2項の適用を受ける。

以上

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