11/8/2024
司法試験合格者に受験の体験談を聞く本連載・令和6年ver。
記念すべき第1回目は、2年間の社会人経験を経て慶應ローに入学、3年次に在学中受験で一発合格した、山内絢音さんです。
大企業を休職して法曹を目指した理由、論文は5周、短答は7周したという過去問の学習方法は必見です。(ライター:サカモト/The Law School Timesディレクター)
山内絢音(やまうち・あやね)さん 令和6年司法試験合格
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業し、2年間大手航空会社の総合職としての勤務を経て、慶應義塾大学大学院法務研究科法曹養成専攻(既修者コース)に入学。
在学中受験資格を得て令和6年司法試験を受験し、合格。
✅社会人からロースクール進学
✅慶應ロー・既修コース
✅在学中一発合格
会社に依存しない働き方を目指して法曹の道へ
起案せずに高速周回、わずか3か月で慶應ロー合格
司法試験の勉強法
ロー1年目は助走。司法試験本番に向けた「ピーキング」の秘訣
「最後まで起案はしなかった」答案構成のメリハリで論文を攻略
判例集は図書館で借りて、2時間で全部読む
緊張で午前3時まで眠れなかった試験当日
弁護士資格は無限の可能性を秘めた、魔法の資格
──社会人から司法試験合格を目指した理由を教えてください
大学3年の終わりに大手航空会社の内定を頂き、その頃にはもう航空会社に就職すると決めていました。しかし、この頃ちょうどコロナが猛威を振るいだし、航空会社は大手でも大赤字、自分の内定が維持されるかもわからない状態でした。
将来に不安を感じる中で、「会社に依存せず、自分の力で働けるキャリアを築きたい」と考えるようになり、大学4年の初めに伊藤塾に入塾し、司法試験の勉強を始めました。
大学卒業後、無事に入社はできたものの、ボーナスカットなどで社内の雰囲気は重く感じられました。幸いにも同期には恵まれ、社会人生活は楽しく充実していたのですが、それでも「弁護士資格を得て、自分の名前で仕事ができるようになりたい」という思いは変わりませんでした。
当初は、働きながら予備試験に合格することを目標にしていたものの、仕事に慣れるのに精一杯で、休みの日も同期と過ごしていたため、1年間ほとんど勉強時間が確保できませんでした。「このままではいけない」と強く感じ、6月に会社を休職し、ロー入試を経て本格的に司法試験合格を目指す決意をしました。
また、大学時代にゼミでお世話になった久保田安彦教授が「君は法曹に向いていると思う」と言ってくださった言葉が、挑戦を続ける上での心の支えになっていました。
──ロー入試までの一日の勉強スケジュールを教えてください。
私は仕事の影響で夜型の生活が定着しており、14時に起きて、3時頃に寝るという生活リズムでした。
──ロー入試に向けての勉強方法を教えてください。
大学4年生の1年間で、伊藤塾の講義はすべて(基礎マスター、論文マスターの双方を含む)受講していたので、休職した6月からロー入試までの3か月間は、論文マスターのテキストを繰り返し復習することに集中しました。全科目を多分4周くらいは回していたと思います。
ただ、受講の仕方は少し独特で、起案はほとんどしていませんでした。そのため、ロー入試までに残された3か月で、論文を一度も書いたことがない状態から、論文が書けるようにする必要がありました。
そこで、答案構成を高速で進める方法を取りました。1問につき、答案構成から復習までを30分ほどで行っていました。
また、当時はロースクールタイムズのロー入試答案集がなかったため、自分で慶應ローの過去問の答案例をネットで探して演習をしていました。今の受験生には、ぜひこの記事やロースクールタイムズの答案集を活用していただければと思います。
(※ロースクールタイムズのロー入試答案集ばこちら)
──ロー入試受験について、社会人の強みや弱みを教えてください。
私には既に司法試験に合格している学部の同期がいて、わからないことがあればLINEで質問できる環境がありました。これは本当に大きかったです。分からないことを放置すると、試験で出題されたときに対応できなくなるので、友人や教授、外部のコーチに積極的に質問することが大切だと感じました。
社会人の弱みとしては、同じ年にローを受験する仲間がいないことが挙げられますが、逆にそれが強みにもなりました。他の人と比べる必要がない分、競争によるストレスが少なく、落ち着いて勉強できたように思います。
社会人の方へのアドバイスですが、退職してしまうと不合格になった場合のリスクが大きいので、可能であれば休職し、合格結果が出てから退職したほうがよいと思います。
──使用していた教材を教えてください。
伊藤塾の呉クラスに入っていたので、基本的には呉基礎本を使っており、それがないところを基本書で補填していました。
過去問対策には、加藤ゼミナールと伊藤塾の両方の模範答案を活用しました。複数の答案を比較することで、絶対に書くべき事項と省いてよい部分が明確になり、また、現場思考の問題に対応する「自由演技」の感覚も掴むことができました。答案のメリハリを理解するためにも、さまざまな答案を見るのは非常に有効だと思います。
私は予備校の模範答案を中心に使いましたが、ゼミで他の人の答案を参考にするのも同様の効果が得られると思います。
行政法については「行政法〔第6版〕櫻井敬子/橋本博之 著」以外は、すべて伊藤塾の呉クラスの教材を使用していました。
私は伊藤塾の48期生のため古い版を使用していましたが、上記はすべて最新の版に基づいて記載しています。
全ての科目で、有斐閣の『判例百選』シリーズを使用しました。
また、最新の判例を学ぶために、有斐閣の『重要判例解説』も活用しました。特に『判例百選』を重視した科目としては、憲法、刑事訴訟法、民事訴訟法、会社法、知的財産法です。
司法試験の過去問は、加藤ゼミナールと伊藤塾の過去問解説を使っていました。加藤ゼミナールの方が解説が充実していました。
──司法試験直前期(3か月前から試験当日まで)の一日のスケジュールを教えてください。
直前3か月は以下のようなスケジュールで勉強をしていました。
ロー入試対策の段階で、自分が全力を維持できる期間が3か月程度であると感じていたため、直前期にこのスケジュールをしっかり組めるように、それまでの期間で試行錯誤をしていました。
もともと夜型で朝早くから勉強するのが苦手だったため、ローの友人4人で「8時会」を結成し、朝8時に登校できなかったメンバーにはペナルティーを課すルールにして、強制的に勉強に取り組める環境を作りました(笑)。
また、場所を変えると作業効率が向上するという「場所ニューロン」の研究を参考にし、数時間ごとに自習室→空き教室→図書館→自宅と、意識して勉強場所を変えるようにしていました。
──司法試験の勉強で工夫していた点を教えてください。
私はピーキング(試験に向けて最適なタイミングで実力をピークに持っていくこと)を意識して勉強をしていました。
まず、自分が全力で走り続けられる期間を把握することが重要です。私の場合は3か月がその期間でした。この3か月間は遊びも控え、本当に文字通り全力で勉強に打ち込みました。本番まで3か月を切った段階では、戦略や方法の見直しは基本的にできません。ですので、ロースクールに入学してから直前期の4月までの1年間で、勉強スタイルの確立、知識の一元化、必要な資料の準備などの下準備を全て終わらせるように心がけました。直前3か月までは息抜きも取り入れつつ、集中力を温存していました。
──短答式試験の勉強法を教えてください
短答式試験の勉強は、司法試験受験年の2月からやり始めて、『短答過去問パーフェクト』を使っていました。iPadのGoodnotesにスキャンしたデータを入れて、1日3時間。午前中にノルマを決めて取り組むようにしていました。
具体的には、憲法:刑法:民法の比率が1:1:2なので、この比率を考慮して1周目は憲法10問、刑法10問、民法20問の合計40問、2周目は憲法15問、刑法15問、民法30問の合計60問、と段階的に進めました。
まぐれで当たってしまった問題が本番で出たら怖いと思い、3周目までは全問題を解きました。4周目以降は、間違えた問題に印をつけ、できなかったものだけを解くようにしていました。最終的に試験までに合計7周ほど繰り返しました。
また、正答率を参考に、正答率の高い問題は確実に正解できるようにし、逆に正答率が低い問題は過剰に復習しないなど、メリハリをつけて勉強を進めました。
論文と短答の勉強比率は1:3で、直前期も短答の勉強量を増やすことはありませんでした。論文の実力がつけば短答にも対応できると考えていたためです。
正直、短答の勉強は苦手でしたが、毎日決まった時間にコツコツ継続したことで、本番では合計133点(憲法31点、民法58点、刑法44点)を取ることができました。
──論文式試験の勉強法を教えてください。
論文式試験の勉強は、過去問演習を中心に行っていました。
過去問はメリハリをつけたかったので、加藤ゼミナールのランク表を参考にしていました。具体的には、Aランクの問題はしっかりと答案構成を行い、BCランクの問題はざっと構成するというアプローチです。フル起案は、TKCの模試とローの期末試験以外、最後まで行いませんでした。
私の1日の直前期の勉強スケジュールを少し詳しめに補足します。
13時から15時:Aランクの問題1年分の答案構成と復習を行いました。答案構成の方法は、六法を参照しつつ問題を10分ほどで読み、その後、該当する条文や論点名を問題文の該当箇所に書き込みます。たとえば、商法の問題で株主総会等の決議の取消しの訴えが出た場合には「831Ⅰ①、Ⅱ」などと書き、結論を○×で記載していました。あてはめに使う事情については、マーカーの色をブルーと決めてアンダーラインを引くようにしていました。
15時から17時:BCランクの問題を、1年分30分という時間制限を設けて4年分の過去問の答案構成を行いました。Aランクの問題でしっかりと構成をしていたことで、短い時間でも答案のフレームの大枠を把握することができました。
私は一問に長い時間をかけるよりも、同じ問題を何回も復習した方が効果的だと考えていたため、1日あたり、しっかり1年分+軽く8年分の合計9年分を学習し、結果的に司法試験・予備試験の過去問を約5周することができました。
17時から19時:この時間帯は自分の苦手な科目に集中して取り組みました。特に、3月に受けたTKC模試で民事訴訟法と知的財産法がE評価だったため、この2科目に重点を置きました。
具体的には、知財の演習書を使用したり、民訴については伊藤塾の百選講座を視聴したりして、過去問以外の学習に取り組みました。伊藤塾の百選講座は非常に役立ったので、民訴が苦手な方におすすめです。
19時から21時:ラストスパートとして再び過去問を4年分解きました。
帰宅後:21時に帰宅し、22時から1時間半程度、朝に残った短答の問題を解くのと論証を覚える時間を設けました。
翌朝:8時から9時の1時間、模範答案を眺める形で、前日やった過去問をすべて復習しました。
──答案を起案しなかったのはなぜですか。
慶應ローの教授のお話で、心に残ったエピソードがあります。その先生は期末試験が終わるたびに講評で、「このテストには◯つの論点が隠れていて、それぞれ◯パーセントの人ができていました」と発表してくれます。しかし、それほど難しくない問題でも、できているのが50%以下ということが多かったのです。
これは司法試験でも同じだと思っていて、たとえば7個の論点が隠れていたら、制限時間内に、どれだけ多くの論点にタッチできるかが一番大事だと感じました。
そのため、論文を書くことよりも、答案構成を高速周回することによって、論点を発見・抽出する能力を高める方がメリットが大きいと思ったんです。もちろん、両方やる時間があればそれが一番ベストだとは思いますが・・!
──知識の一元化はどのように行っていましたか?
私は、憲法・行政法・商法は加藤ゼミナールの論証集に、それ以外は呉先生の論証集に知識を一元化していました。テキストの章立てのタイトルに、他の問題集の問題番号や過去問の年度、ローの教材の出所をメモしておくことで、その論点が問われた問題にすぐにアクセスでき、論文での問われ方を瞬時に把握できるようにしていました。
また、私は論証集を自作することはしませんでした。自作論証集を作ることで、それに全信頼を寄せてしまい、前後に書かれている重要な情報を見落とす危険性があると思ったからです。
法律は思っている以上に難解で、すぐには本質を理解できないものです。1か月前には重要でないと思っていたことが、2か月後には重要に感じることもあれば、5回目でようやく理解できることもあります。だからこそ、あえて原典に当たることを重視しました。
さらに、論証の数で勝負が決まるとは思っていなかったため、論証は増やさず、内容はキーワードを覚えて、文章はその場で考えて書くスタイルを取りました。
──判例集等は使っていましたか?
有斐閣の『判例百選』とそのAppendix、さらに直近7年分の重要判例解説を活用していました。直近7年分の重要判例解説は、試験の1ヶ月前を切った時期に知らない論点や判例をなくすための目的で使用していました。購入するのはコストパフォーマンスが悪かったのと、タイムリミットを設けて一気に読み切りたかったので、図書館で借りて2時間で一冊を読み切るスタイルを取りました。
判例の読み方にはメリハリをつけており、知らない論点やテーマの判例は飛ばし、ローの授業で扱ったことのある判例や論点的に出そうな判例はしっかりと読むよう心掛けていました。
──ローの授業はどのように活用していましたか?
ローの授業も、常に司法試験の論文を書く視点を持って受講していました。基本書に載っていないテーマについては、後から参照できるようにテキストに「民法総合 第8回 レジュメp32」などと記載して、知識の補充としても活用していました。
慶應ローは教授陣が非常に優れており、試験委員の経験を持つ教授も多くいらっしゃいます。授業終了後には、授業内容に関する質問だけでなく、過去問で理解できなかった点についても質問させていただき、深い理解を得ることができました。
──試験前日、当日の過ごし方を教えてください。
普段はすぐに眠れるのですが、試験前日は24時頃にベッドに入ったものの、緊張から午前3時まで眠れませんでした。でも、睡眠が少なくても数日はアドレナリンで乗り切れると思うので、あまり不安に思わなくても大丈夫です!試験中は、終わった科目のことは考えず、すぐに次の科目の勉強に切り替えるよう心がけていました。
試験会場には長袖のトレーナーで行ったのですが、冷房がかなり効いていて寒かったので、上着を持っていくことをおすすめします。楽だからとビーサンで行ったのは正直後悔しました(笑)。あと、クッションは必須アイテムです!あるのとないのとでは体の疲れが全然違うと思います。
──就活に社会人経験は活きましたか。
特に企業法務系の法律事務所では、ビジネス経験が求められている場面が多いと感じました。自分の社会人経験も、こうした場面で好意的に受け取っていただけたと思います。
──社会人受験生へのメッセージをお願いします。
社会人から司法試験を目指すと、最初は「遅れ」を不安に感じることもあるかもしれませんが、実際に法曹の世界に入ると、その違いがたいしたことではないとすぐに気づくはずです。だから、恐れずにぜひ挑戦してみてください。
法曹の世界は本当に面白い業界ですし、弁護士資格は「無限の可能性を秘めた魔法の資格」だと思っています。興味がある方には、社会人かどうかに関わらず、ぜひ飛び込んできてほしいです。
──司法試験受験生へのメッセージをお願いします。
司法試験は、知識だけではなくメンタルの勝負でもあります。最後までどれだけ強い気持ちや自信を持ってやり抜けるかが非常に重要です。
たとえ最初は自信がなくても、「絶対に合格する」という強い決意を持つことが大切です。この「決め」があると、人は自然と理想に向かって努力を積み重ねていけます。努力が続かないのは、もしかすると「決め」が甘いからかもしれません。
試験当日までしっかり準備できる人とそうでない人の違いは、この覚悟にあると思います。「絶対に合格する」と自分で決めると、理想と現実のギャップを埋めるための行動が自然と伴い、自信を持って当日を迎えることができます。
私は過去問を誰よりも繰り返すと決めて取り組んでいました。皆さんも「これだけは誰にも負けない」と思える強みを見つけて、それを自信に変えていってください。
皆さんの挑戦を心から応援しています!
【修正】11月8日(金)11時30分 記事内の誤字を修正しました。