
4/11/2026

法律家を目指す、すべての人のためのメディア、The Law School Times。「社会人経験者の司法試験に関する情報が知りたい」「社会人が司法試験を目指すのは実際無謀なの?」そういった疑問にお答えするため、社会人出身者が司法試験に合格するまでについて聞く連載の第2弾。今回は、公認会計士として働き、2人の子どもを育てながら在学中受験で司法試験に合格された、木曽侑恵さんにお話を聞きました。
(ライター:細川 高頌/The Law School Times編集部)
――最初に、司法試験を受けようと思った経緯を教えてください。
私は幼いころから母親に、「これからの時代は、女性も将来の選択肢を増やせるよう、できるだけ手に職をつけた方がいい」という話しをされてきました。そこで、資格があれば経済的に自立しやすくなるのではないかと思い、公認会計士の資格を取りました。資格をとった後、監査法人で働き始め、クライアントの組織再編や会計監査を担当するなかで会社法や租税法などの法律に触れる機会があり、法律に興味を持つようになりました。
その後、出産や育児休暇を経て、子育てに追われる中で、仕事ができる時間帯も限られるようになりました。「限られた時間の中でも自分なりの強みをもってクライアントのためになる仕事をするにはどうすればいいか」と考えたときに、弁護士と公認会計士のダブルライセンスを取得することで、会計と法律という両方の視点から、より専門性の高い業務を提供できるのではないかと思ったことが、司法試験の勉強を始めたきっかけです。

――なぜ法科大学院に進学されたのですか
最初は5年くらいの計画で予備試験を目指そうと思って勉強していたのですが、予備試験の合格率が低いことと、数年単位の長期目標を立ててそこに向けて勉強するのは私には合っていないと感じるようになりました。そこで、勉強を始めて1年半くらいたった時期に目標を法科大学院の受験に切り替え、その年の試験に合格ですることができたので、進学を決めました。
――進学を決めるうえでの悩みはありませんでしたか
もちろん、仕事をセーブして、高い学費を払って進学することになるため、不安はありました。子どももまだ小さく、今後のキャリアのことも考えると、仕事を辞めて司法試験に専念するのは、私にとってあまりにもリスクの大きいことでした。そこで、勤務していた会社の理解もあって、非常勤として週に数日働きながら大学院に通うことにしました。
それでも、自分の中では『もし留年したらすぐに撤退する』『司法試験に受からなかった場合の受験回数を事前に決めておく』などのルールを作り、入学後の資金繰り表も作成して、具体的なパターンをいくつも想定していました。
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―ーどのようなスケジュールで勉強されていたのですか
授業のある時期は週に2日、1日7~8時間ほど仕事をしており、仕事がある日は勉強をしないと決めていました。それ以外の日は、朝は夫に子どもたちの送りをお願いして、私は大学院に行って勉強し、夜は私が子どもたちを迎えに行くという生活でした。夕方まで授業がある日は、子どもたちの迎えに間に合うように授業が終わったら走って電車に飛び乗ることも多々ありました。授業については、私は予習をメインにする勉強スケジュールをたてていたので、次の授業の範囲をなるべく丁寧に予習して、授業の中で判例等を理解しきるように心がけていました。幸いなことにクラスの友人たちに恵まれて、一緒に予習グループを組むなどして効率的に学習することができたと思います。

――直前期はどのように勉強していましたか
試験本番が近づくにつれて、「周りの受験生は私より長い時間勉強している。私はなかなか勉強時間が確保できない」と焦る気持ちが大きくなり、3日に1回くらいのペースで勉強計画を立て直して、自分の中で今何をやるべきかを明確にして気持ちを落ち着かせていました。私の場合は、特に短答に苦手意識があったので、直前期の勉強時間の多くを短答対策にあてていました。
――司法試験の本番はどうでしたか
論文試験はこれまで勉強してきたことを落ち着いて記述することができたので、大きく崩れることはないなという感覚がありました。だからこそ、短答で足切りにあったらどうしようという思いが日に日に強くなり、論文試験の空き時間中も短答の勉強をしていました。今思うと、もっと計画的に短答の勉強をしておけばよかったという反省があります。
――合格したときはどのような気持ちでしたか
そわそわするのが嫌だったので、合格発表の前日と当日はあえて仕事を入れて、スマホの電源も切ってなるべく試験のことを考えないようにしていました。夕方まで仕事をして、法務省の掲示板を1人で見に行って、自分の番号があったときはホッとしました。

――これから司法試験の受験を考えている社会人にどのようなことを伝えたいですか
個人的には、手放しで勧めることはできないと思っています。進学には費用もかかるし、これまでのキャリアや家庭などにも影響が出ます。なので「一発逆転」を目指すのではなく、様々なリスクを考慮したうえで、慎重に検討して欲しいという思いが強いです。
ただ、私も年齢や金銭面等、進学する前は不安なことも多かったのですが、実際に進学してみると、似た境遇の社会人経験のある人たちと情報交換しながら勉強をすることができましたし、大学院のカリキュラムをしっかりこなして真剣に授業に取り組めば司法試験にも十分対応することができました。なので、進学に前向きな理由があって、リスクを負ってでも挑戦したいという気持ちがあるのであれば、挑戦のしがいのある試験だと思います。
――これからの目標について教えてください
これまでの公認会計士としての経験は私にとって大きな強みになると思うので、会計の知識や経験を活かしながら、クライアントに貢献できる弁護士になりたいと考えています。具体的には、会計知識や税務が絡むような企業法務、M&Aや不正調査等の分野で弁護士・会計士のダブルライセンスの強みをいかして、クライアントや社会に貢献していきたいです。
また、これは長期的な目標になるのですが、私の場合は、資格をとれたことが自分の自信になり、経済的・精神的自立にもつながりました。そうした自分自身の経験を通して、女性や社会的に弱い立場にある人たちが活躍しやすい社会になるよう、活動していきたいと思っています。

プロフィール
2011年公認会計士試験合格。財務会計系のコンサルティング会社を経て大手監査法人に入社し、主に上場会社に対する財務諸表監査や内部統制監査に従事。2024年4月より早稲田大学大学院法務研究科(既修者コース)に入学し、2026年3月に卒業。2025年司法試験合格。
聞き手
細川高頌
横浜国立大学教育人間科学部卒。青年海外協力隊としてトンガ王国で活動後、NHKに入局。2025年3月にNHKを退職し、同年4月より早稲田大学大学院法務研究科(既修者コース)に入学。