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法曹界にAIを広める弁護士の軌跡 -「今できないだけ」と信じて挑戦し続ける-
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法曹界にAIを広める弁護士の軌跡 -「今できないだけ」と信じて挑戦し続ける-

7/10/2025

法曹界の多様なキャリアや働き方について聞く、シリーズ「タテヨコナナメの法曹人生」

第4回目は、外資系法律事務所、コンサルティング会社、スタートアップ企業での経験を経て、現在は弁護士業界などへのAIの普及を行っている、金子晋輔弁護士にお話を聞きました。( 聞き手:The Law School Times編集部/細川高頌、鈴木奏蘭)



◇「つぶしがきく」という理由で選んだ法学部◇


ーー今の仕事内容を教えて下さい

今は、AI業界のスタートアップ企業を弁護士として支援したり、会社や弁護士・弁理士事務所などに向けてAIを活用した事業のコンサルティングをしたりしています。

また、弁護士向けのAIコミュニティを立ち上げたり、スタートアップカンファレンス「IVS2025」でAIステージの企画運営をしたりもしています。 こうして話すと、計画的に見えるかもしれませんが、実際はそうではありません。ここに至るまでは、本当に試行錯誤の連続でした。


ーー法律の道に進んだきっかけは何だったのですか

大学時代は、英語が好きで、「鉄緑会」という予備校で4年間英語を教えるアルバイトをしていました。また、編集者になりたいという気持ちもあって、ガラケー向けのコンテンツ配信のアルバイトもやっていたんです。

でも将来が明確に見えていたわけではなくて、法学部には、「つぶしがきく」という理由で入学しました。周りが司法試験の勉強をしているのを見て、なんとなく合わせる形で自分も始めてみたんですが、本気になれない自分では全く歯が立たなくて。大学3, 4年で周りがどんどん現役合格していく中で、すごく悔しい思いをしました。


ーーその後、どのような経緯でロースクールに進まれたのですか

親とは「大学までは支援するが、それ以降は自立する」という約束をしていたので、ロースクールに行くためには自分でなんとかしなければいけませんでした。親に頼み込んでお金を借りて、就職後に分割で返済するという約束で進学を決めました。 ロースクール入試は、第一志望の東京大学には落ちて、中央大学に「拾ってもらった」という感じです。

でも、そこで初めて実務家の方々と接する機会を得て、弁護士という仕事のイメージがようやく掴めるようになりました。東京大学法学部はアカデミックな雰囲気は好きでしたが、当時は、実務家との交流機会が限られていました。中央大学法科大学院のおかげで、「自分でも弁護士の仕事ができるかもしれない」と思うことができました。

18歳から24歳頃まで6, 7年間、将来への不安とプレッシャーの中で悩み続けていました。しかし、この経験の中で「思っていなかった道の先に、自分を助けてくれる人がいる」ということを学びました。


ーー就職活動ではどのような選択をされたのですか

法律事務所の就活では、実は大手事務所は避けました。「同期が先輩になる」のが嫌だったんです(笑)

それで、予備校で英語を教えていた経験を活かして、英語力を頼りに外資系事務所を受けました。当時は外資系に行く人は少なかったんです。 「グローバル化の流れを読んで戦略的に選択した」みたいな気持ちもありましたが、実際は、もっと直感的で消去法的な選択でした。でも、ここでもまた思いがけない人たちとの出会いがあって、道が開けていきました。



◇「時代に取り残されるな」◇


ーー外資系事務所ではどのような仕事をされていたのですか

約9年間、スマホ、通信技術、半導体などの特許訴訟、システム開発訴訟、国際仲裁、難民訴訟などの紛争解決プラクティスをメインに担当していました。その中で、英語が自分の一番の武器だと思っていたのですが、AIによる自動翻訳の性能がどんどん高くなっていくのを目の当たりにして、「このままでは自分の価値がなくなってしまう」という危機感を抱きました。

「時代に取り残されてはいけない」という切迫感が常にありました。私は就職氷河期やバブル崩壊を間近で見てきた世代なので、「いざとなったら会社も社会も助けてくれない」という思いが根底にありました。

ーーその後のキャリアチェンジについて教えてください

DXの流れを感じ取って、「とりあえず最前線を体験してみよう」とアクセンチュアに転職しました。2年ほどでDXを自分なりに理解できたので、次はUXを学びたいとスタートアップに移りました。 転職は「完璧な戦略」というより、「なんかこれは面白そう」「これは危険そうだから早めに動こう」という感覚的な判断の積み重ねでした。クランボルツの「計画的偶発性理論」や、スティーブ・ジョブズの「Connecting Dots」という考え方を頼りにしていますが、実際は日々がむしゃらにやって、とにかくたくさん失敗をして、ひとつ成功したらそれを頼りに頑張る、の繰り返しです。

※DX・・・社会やライフスタイルをデジタル化によって変化させること
※UX・・・ユーザーがサービスや製品の使用で得られる体験

ーー挑戦し続ける原動力は何ですか

とにかく、諦めないことです。今日できなくて落ち込んでも、「今できないだけ」だと思うようにしています。失敗の数の方が圧倒的に多いんですが、負の感情が追いついて来ないほどのスピードでトライし続ければ、きっと、どこかにたどりつけると信じているんです。 AI分野に参入したのも、様々な人が声をかけてくれたことがきっかけでした。弁護士向けAIコミュニティの立ち上げやカンファレンスの企画運営も、「人が人を呼ぶ」形で活動が広がっていきました。結果的に戦略的に見えるキャリアも、実際は無数の挑戦と失敗、そして人との出会いの産物なんです。


ーーこれからの時代、弁護士にもAIの知識やスキルが必要になると思いますか

それは本当に人によると思います。上の世代の弁護士の方々で、すでに専門領域とクライアントを持っていて、従来のビジネスモデルで十分仕事ができる方にとって、AIは必ずしも必要ではないかもしれません。 でも、これからの世代は違います。AIの活用やデジタル化を求めるニーズがどんどん増えていく中で、クライアントのニーズに先回りできなければ、価値を提供できなくなってしまいます。社会的なニーズが高いことは間違いないので、そのことも含めて自分にとって必要かどうかを検討して、必要だと思えば恐れずに体験してみることが大切だと思います。



◇法曹を目指す学生へのメッセージ◇


ーー法曹を目指す学生にどのようなことを伝えたいですか

完璧な人生設計は必要ありません。私自身、「つぶしがきく」という理由で法学部に入って、親から借金をしてロースクールに通い、消去法で就職先を決めて、そこからがむしゃらに挑戦し続けてきただけです。

大切なのは、目の前の機会に全力で取り組むこと、失敗を恐れずに「今できないだけ」という心持ちで前進し続けることです。小さな成功を大切にして、それを次の挑戦の糧にしていけば、点と点がつながって道が見えてきます。 制約や困難があっても、思いがけない場所で助けてくれる人に必ず出会えます。人を信じるのが難しい時代ですが、信用できる人や信頼できる人を見抜くのは場数と技術です。たくさんトライしてたくさん失敗してください。私は、失敗は魅力的だし、最後には、全て笑い話になると信じています。

経歴
• 弁護士(62期)、ニューヨーク州弁護士
• 伊藤見富法律事務所(現:モリソン・フォースター法律事務所)
• アクセンチュア株式会社 法務部
• dely株式会社 執行役員(コーポレート)
• 法律事務所Verse 代表

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