10/23/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
九州大学法科大学院2022年 民事訴訟法
設問1
1. Xは、反訴において、本訴の訴求債権である180万円を自働債権として相殺の抗弁を提出している。かかる相殺の抗弁は適法か。
2. この点について、相殺の抗弁は攻撃防御方法にすぎず、「訴えを提起すること」(民事訴訟法(以下略)142条)には該当しない。しかし、これを別訴で訴求すれば重複訴訟の禁止に当たる。では、相殺の抗弁は認められるか。
⑴ 重複訴訟禁止の趣旨は、訴訟不経済の防止、裁判の矛盾抵触の防止、被告の応訴の煩の回避である。これを相殺の抗弁についてみれば、前訴で請求された債権が後訴において相殺に供されている以上、審理重複が生じ、訴訟不経済となるおそれがある。また、相殺の抗弁においては、審理された債権について既判力が生じる(114条2項)以上、裁判の矛盾抵触のおそれもある。
したがって、142条の趣旨が妥当するとも思える。
⑵ もっともXによる相殺の抗弁は、本訴において過払金債権が時効によって消滅したと判断されたことを条件に、当該過払金債権を反訴に係るYの貸金債権と相殺するという予備的相殺の抗弁である。これは民法508条が、当該債権が消滅時効にかかっていてもその前から相殺適状にあった場合には相殺が認められるとすることに基づく主張である。そのため、この相殺の主張は、本訴が時効消滅したと判断されたことを条件とするものであり、本訴と相殺の抗弁において債権の存否につき矛盾する判断がなされるおそれがないといえる。また、本件の予備的相殺の抗弁の判断をするかどうかは、本訴の判断により反訴の判断をするかどうかが決まるのであるから、弁論の分離をすることはできない。よって、弁論が分離されるおそれがなく同一の裁判体による審理がなされるから訴訟不経済、応訴の煩いのおそれもない。
⑶ したがって、本件においては、上記142条の趣旨が妥当せず、Xによる相殺の抗弁は適法である。
設問2
1. Xは本訴を提起したあと、Yが提起した別訴において、本訴訴求債権を自働債権とし別訴訴求債権を受働債権とする相殺の抗弁を提出しているが、かかる相殺の抗弁は適法か。
2. この点について、相殺の抗弁は攻撃防御方法にすぎず、「訴えを提起すること」(民事訴訟法(以下略)142条)には該当しない。しかし、これを別訴で訴求すれば重複訴訟の禁止に当たる。では、相殺の抗弁は認められるか。
⑴ 上記のとおり、重複訴訟禁止の趣旨は訴訟不経済の防止、裁判の矛盾抵触の防止、被告の応訴の煩の回避である。相殺の抗弁についてみれば、前訴で請求された債権が後訴において相殺に供されている以上、審理重複が生じ、訴訟不経済となるおそれがある。また、相殺の抗弁においては、審理された債権について既判力が生じる(114条2項)以上、裁判の矛盾抵触のおそれもある。また、本件でXが相殺の抗弁を提出したのは、設問1と異なり、本訴の反訴ではなく別訴においてである。そのため、同一の裁判体で審理判断されることもなく、判断の矛盾抵触、訴訟不経済、応訴の煩いのおそれは大きい。
⑵ したがって、142条の趣旨が妥当するから同条を類推適用して、抗弁の提出を認めるべきではない。
3. 以上より、Xの相殺の抗弁は不適法である。
以上