2/22/2025
こんにちは!私は今フランスの大学で「Political Humanities (政治哲学、歴史、社会学などを中心とした学問)」を専攻している大学2年生です。
この連載では、私のフランスでの日常生活や司法試験への挑戦への道のりを記録していきます。
日本で弁護士を目指すことを決意した私が、フランスの大学生活や学びを通して何を感じ、どんな成長を遂げていくのか――。異なる文化での学びと日本の司法試験に挑むリアルな体験を、日記やエッセイ、Vlog的な視点で毎月お届けします。
その第1弾では、まず私についての自己紹介と冬休みの法律事務所インターンを通して思ったことについてです!
(ライター:みりん/The Law School Timesライター)
・私について
・冬休みの法律事務所インターン奮闘記@法律事務所Z
・法律はスポットライト?私が感じた法律の面白さ
・弁護士という仕事
・「普通」を覆す。私が「弁護士」に惹かれた瞬間
・来月もぜひご覧ください!
私は、小さい頃から東南アジアやアメリカなどで生活していた経験があり、中学・高校はインターナショナルコースのある日本の学校に通っていました。その影響もあって、大学はフランスでも名門と言われる政治系の大学に進学することができました。
そこで「なぜフランス?」とよく聞かれます。私は、歴史が好きだったので、ヨーロッパの歴史的な街並みに囲まれて大学生活を送りたい!と思っていました。そのため、イギリスとフランスの大学を受験しました。最終的には①専攻を後から選択できること、②フランス語が学べることという2つの利点でフランスにいくことに決めました。
結局は、想像していた街並みとは違う雰囲気ですが、ル・アーヴル(オーギュスト・ペレが再建した世界遺産の港町)で2年間の学生生活を送り、3年目はまた別の国(私の場合デンマークのコペンハーゲン)に留学するカリキュラムのある大学に進学しました。
ルアーブル、シティーセンター(文化遺産登録)
大学2年生になったとき 、major(主専攻)に「Political Humanities (「政治人文学」的な政治的主観性を身につける)」、minor(副専攻)に 「Thinking Like A Lawyer(弁護士の様に思考する)」 を選びました。
私は元々法律や弁護士に興味があったわけではなく、1年次に受講した 「Political Institution (世界の政治機関)」の先生の授業が面白く、その先生の授業を受けたい一心に副専攻として「Thinking Like A Lawyer」を選びました。結果的に、授業や試験で読んだケーススタディ(裁判例・判例)が面白く法律に少し興味を持つようになりました。
私の大学では、夏の1ヶ月の地域に貢献する形のインターンと2年次に授業と並行して行われるインターンが義務付けられています。さらに海外大学の受験では高校時代のインターンや課外活動も評価の一部です。そんな環境もあって、私にとってインターンをすることは特別なものではなく、むしろ「普通」という感覚になっていました。
そのこともあり、法律関係の仕事を見てみたい・体験してみたいと考え、「弁護士事務所インターン」と調べて3〜5ほどの事務所にメールと履歴書を送りました。
1週間以内に2つの事務所から返事があり、1つは「法学部生・法科大学院生でないと受け入れられない」というものでしたが、私がインターンをすることになった法律事務所Zでは冬休み期間のみの希望だったにもかかわらず、快く受け入れてくれました。
📌 応募はこちらから
🔗 法律事務所Z 有償インターン募集
法律事務所Zのインターンでは、決まったプログラムはなく、事務所に所属する3人の先生方からそれぞれ異なる課題を与えられ、それに取り組みました。
課題内容は以下のようなものでした。
・「この裁判の争点と争点判断の重要ポイントを整理して教えてください」
・「この事案で自分ならどう弁護しますか」
・「第1審と控訴審の判断が異なる理由を考えてください」
・「基本書の〇〇の部分の内容を教えてください」
これらの課題は、事務所で実際に発生した民事・刑事・行政の事件を題材として、訴訟資料や種々の文献、裁判例等を参照し、さまざまな視点からのアウトプットが求められる形式になっていました。
さらに、課題のフィードバックでは、誰かに説明するときにどうまとめたらわかりやすいのかという基礎的な点から条文の趣旨まで細かく教えて頂きました。また、示談書の作成や証人尋問の見学などを通して、教科書では学ぶことができない、生身の依頼者と向き合うことに対する緊張感や言葉選びの重要性など多くのことを学ぶことができました。
特に、法廷での証人尋問では、普段の書面ではみられない迫力や法廷に座る人々の人間らしさを見ることができました。法廷で活躍する弁護士の先生の姿も改めてかっこよかったです。
法律と聞くと一般的には、「これはしてよくて、これはしてはいけない。」と明確に定められているようなイメージがあるのではないでしょうか?
私も法律をちゃんと知る前は、そんなものだと思っていました。ところが、実際に法律と向き合うと、条文の中のひとつひとつの文言は抽象的なもので、その条文にはさまざまな解釈が生まれるのです。そして、この解釈を通じて条文の適用範囲や効果が画定されるのです。
インターン期間中にお世話になった弁護士の先生の一人が、法律をこのように例えていました。
「法律はぼんやりとしたスポットライトで、法律家はその境界線、ライトが照らしているエリアを明確にするようなものだ」
(下の図を参照。)
面白いと思いませんか?
そんな法律を活用して、スポットライトの照らすエリアを明確にするのが弁護士の仕事です。
弁護士の先生にもそれぞれ、異なる経験・背景があり、「なぜ弁護士になったのか?」という質問に対しても、さまざまな答えが返って来ました。また、インターンを通して様々な先生の弁護士という立場や仕事に対する思いを聞くことができたのは貴重な経験となりました。
中には、強い動機がある訳ではなく流れで司法試験を受験した先生もいました。しかし、その先生も自分なりの思いを持ち、依頼者と向き合っていることが印象的でした。事務所全体に、責任を持って職務に取り組む雰囲気が漂っていました。
インターン中にお世話になった、一般民事事件や刑事事件を多く受任している法律事務所Zの所属弁護士のA先生は、弁護士をする上での仕事に対する考え方をいろいろと教えてくれました。ここでは、特に私の印象に残っているものをシェアします。
皆さんは、「どんな人が良い弁護士なのか?」考えたことはありますか?もちろん、その答えはひとりひとり変わってくるものです。この質問にA先生は以下のように答えてくれました。
「勝つのがいい弁護士、強い弁護士であるという考えが一般的かもしれません。
もちろん勝ちにこだわるのは大事です。しかし、訴訟の勝敗のみで依頼者の利益や満足が語りつくせるものではありません。例えば、法律のプロからみれば明らかに支払義務のあるお金の請求を受けていたとしても、反論を尽くしたうえで納得して支払いたいと考える方がいます。他にも、支払意思はあるもののお金がなくて訴訟提起されてしまった場合に、期日間に必死にお金を集めてなんとか資金繰りのショートを防ぎ、会社経営を継続できるケースもあります。
依頼者が求めていることを理解し、過程にも結果にもこだわりながら依頼者にとって最善を尽くす弁護士が良い弁護士だと思います。
そのような意味で、依頼者の利益や満足を獲得しながら綺麗に負けることができる弁護士も素晴らしいと思います。」
「なぜ有罪になるとわかっている人を弁護するのか?」――これは、多くの人が気になる質問ではないでしょうか。
A先生はこの質問を私に投げかけてくれました。正直、私はこの問いについてあまり考えたことがなく、自分なりの答えを見つけるのに苦労しました。
最終的に納得できる答えを導き出すことはできず、A先生に話を聞くと、私が迷っていた点について、すっと腑に落ちる答えを教えてくれました。
まず、私は、 “innocent until proven guilty” (疑わしくは罰せず)という言葉があるように、弁護士は有罪が証明されない限り、無罪であると信じて、被告人の利益のために最善を尽くべきだからではないかと思いました。
でも、ここで問題にしているのは、すでに自白していて、客観的証拠からも有罪であることが明らかな場合です。そのときはなぜ弁護するのでしょうか。もちろん、弁護士としての義務感があるのかもしれません。しかし、私はそれ以上に「なぜ被告人が罪を犯してしまったのか」という理由を明確にしなければ、被告人がしてしまった行為に見合う量刑の罰を受けさせることができないから罪を認めた被告人も弁護しなければならないのだろうと考えました。
でも、私の気になる「なぜ」という問いは、単なる個人的好奇心に過ぎません。それが「自白している被告人を弁護する理由」にどのようにつながるのかという説明が自分ではできませんでした。
そこでA先生に聞くと、
「被告人が自分の言い分を聞いてもらえずに判決を受けたら納得できず、更生するモチベーションを奪うことにもなりかねない。それに検察も裁判官も人間であり、多少の無意識なバイアスがかかってしまう可能性は否定できない。だからこそ、弁護人がしっかり被告人の言い分を聞いて、その主張を正当に代弁してあげることで『人も手続きも守る』のだ」
とおっしゃっていました。
着目する点はやはり「なぜ」という点でした。しかし、上記の説明によって、個人的好奇心を超えた明確な理由が示され、私は非常に納得感のある答えだと感じました。
他にもさまざまな視点を知りたいならこれを読んでみると良いと、この本を勧められました。
「なんで、『あんな奴ら』の弁護ができるのか?」
この本は、アメリカの刑事弁護士アビー・スミスが書いたもので、15人の刑事弁護人たちそれぞれの「なぜ『犯罪者』を弁護するか」に対する答えが書かれています。読んでみると新しい気づきが多く、面白い内容でした。
インターンを始める前、正直なところ、私が興味を持っていたのは検察の仕事でした。法律に興味を持ち始めてから、法をテーマとしたドラマや映画を観るうちに、検察の仕事に憧れを持ちました。
しかし、インターンを通して「私がやりたいのは弁護士なんだ」と強く感じた瞬間がありました。
インターンでは、過去にその事務所が扱った事件を題材として、さまざまな課題に取り組んでいました。3件目の刑事事件では、「自分ならどう弁護する?」という課題を出されました。
この事件は少年事件で「暴行」をしたかどうかが争われていました。
暴行罪が成立するには刑法第208条に定められた要件を満たす必要があります。そして、暴行罪が成立するには「故意」が必要であるというところに私は着目しました。そしてこの点を論拠に、この事件では、わざとやったわけではないから暴行罪が成立しないとの弁護方針を組み立てたのです。
それを持ってA先生に話に行くと、「良い考え方だけど、それだと弱い」と指摘されました。そして、実際にどう弁護して非行事実なしの不処分(成人事件でいう無罪)を勝ち取ったのかを説明してくれました。その説明は私にとっては、本当に意外なアプローチでした。「故意」に焦点を当てたのではなく、「そもそも暴行自体が存在しなかった」ことを主張するという弁護方針だというのです。実際に証拠から裏付けられる事実を積み重ねていくと、合理的な疑いを差しはさむ余地がないほどに暴行があったとはいえないなと思いました。
この話を聞いて、私は弁護士という仕事に魅力を強く感じました。
少し言い方が悪いかもしれませんが、私が思うに、弁護士は、「一見屁理屈のようにも見える主張でも、証拠を使ってそれに信憑性を持たせることができる仕事」なのです。
若干捻くれていると思う人もいるのかもしれません。でも哲学が好きな私からしたら「普通」を覆す、この考え方こそがが本当に面白く、引き込まれるような魅力だと感じました。
月1回更新の「弁護士を目指す、フランス留学中の大学生が綴る留学&司法試験挑戦記」。毎回テーマは違いますが、普段とは違う法律の視点やその活用法を一緒に探ってみませんか?
第1回は、私の自己紹介と、どうして法曹の世界に興味を持ったのかについてお伝えしました!法律や弁護士という仕事に対する私なりの解釈と魅力も少しシェアしてみました。
取り上げてほしい話題や質問などあれば、ぜひXのLSTimesアカウントのDMを通してで教えてください!
今すぐフォロー!👇
LSTimes公式Xアカウント