2/29/2024
The Law School Times【ロー入試参考答案】
東北大学法科大学院2023年 刑事訴訟法
設問1
1. 捜査①は、公道上に設置されているゴミ集積所に置いてあるゴミ袋①の中身を確認することなく領置しているが、「領置」(刑事訴訟法(以下略)221条)として適法であるか。
2. 本件では、ゴミ袋①は「任意に提出」されたものではないため、これが「遺留した物」にあたる必要がある。
⑴ 領置は条文上、令状が不要とされており、それは強制捜査である捜索・差押と比較して、占有取得過程に強制的な要素が含まれない捜査であるためである。そのため、「遺留した物」は、遺失物よりも広い概念であり、自己の意思によらず占有を喪失した物に限られず、自己の意思によって占有を放棄し、離脱させた物を含むと解すべきである。
⑵ 公道上のゴミ集積所にゴミ袋を不要物として排出した場合、そのゴミ袋の占有を放棄したものといえ、ゴミ袋①は「遺留した物」にあたるといえる。
3. もっとも、「遺留した物」に該当したとしても、領置に限界はないか。
⑴ 通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待がある。そして、ゴミの内容を把握することにより、元占有者の情報が収集され、プライバシーの利益が侵害されるおそれがあり、上記期待は保護に値するといえる。そのため、捜査比例原則(197条1項本文)が及び、かかる原則に反する場合には違法である。具体的には、捜査の必要性、緊急性を考慮した上で、具体的状況下で相当と認められる範囲内でのみ、221条により領置することができると解する。
⑵ 本件において、暴力団の組織的な拳銃密売という重大な犯罪の嫌疑が高いにもかかわらず、証拠が不十分であり、ゴミ袋①を領置する必要性は高いといえる。また、密売に関する証拠隠滅の可能性・容易性を鑑みると、領置する緊急性も高い。そして、公道上に設置されたゴミ集積所に置いてあるゴミ袋は、ゴミとして収集されることを期待して占有および所有権を放棄したと見るのが相当であり、プライバシーを保護する必要性は低い。よって、捜査①は相当であるといえる。
4. 以上より、捜査①は適法である。
設問2
1. 捜査②は、マンションの敷地内に設置されているゴミ集積所に置いてあるゴミ袋②を、マンションの管理会社の許可なく立ち入り、領置しているが、「領置」(刑事訴訟法(以下略)221条)として適法であるか。
2. ゴミ袋②は「任意に提出」されたものではないため、これが「遺留した物」にあたる必要がある。ゴミ袋①と同様、不要物としてゴミ集積所に排出しており、そのゴミ袋の占有を放棄したものといえ、ゴミ袋②はXとの関係においては「遺留した物」にあたるといえる。
もっとも、ゴミ集積所は丙マンションの敷地内にあり、出入口が施錠されておらず、誰でも出入りしようと思えば可能であったとしても、ゴミ集積所は倉庫の中にあり、屋根、壁、扉で周囲と隔てられた空間を形成していたといえる。また、明らかに第三者の無断の立入を予定していないと言える。そのようなゴミ集積所の中にあるゴミ袋は未だマンションの管理会社の占有が及んでいたといえる。そのため、ゴミ袋②は「遺留した物」に当たらない。
3. よって、ゴミ袋②を持ち帰る行為は領置ではなく、捜索差押に該当し、丙マンションの管理会社の許可または令状なく回収することは違法である。
4. 以上より、捜査②は違法である。
以上