10/17/2023
The Law School Times【ロー入試参考答案】
一橋大学法科大学院2022年 刑事系/刑事訴訟法
小問1
免訴判決(刑法249条1項・刑事訴訟法(以下略)250条2項4号、337条4号)
小問2
1. 公訴時効制度が存在する意義
時間の経過により犯罪の社会的影響が微弱化し、可罰性が消滅する点にあるという見解がある(実体法説)。しかし、可罰性が消滅したのであれば無罪判決を出すべきであるところ、法は公訴時効を免訴判決事由としており、かかる見解は妥当ではない。
また、時間経過により証拠の散逸が生じ、公正な裁判が不可能になるとする点にあるという見解がある(訴訟法説)。しかし、法は法定刑を基準に時効の有無や期間を定めているところ、証拠の散逸のスピードは法定刑により異ならないためかかる見解は妥当でない(訴訟法説)。
そこで、一定期間訴追されていないという事実状態を尊重し、国家の訴追権行使を限定して個人を保護すべきとする点にあると解するべきである(新訴訟法説)。
2. Aを公訴提起できるか否か
255条1項前段の趣旨は、訴追権行使の困難にある。そして、犯人が国外にいる間は、一時的な海外渡航による場合であっても、訴追権行使が困難となるから、「犯人が国外にいる場合」として公訴時効の停止が認められると解する。
小問1の通り、既に7年余りが経過し公訴時効が成立していると思えるが、Aはそのうち1年間にわたり海外に渡航していたため、その間公訴時効が停止している。よって、未だ公訴時効は成立していない。
したがって、検察官はAを公訴提起することができる(247条)。
小問3
1. 検察官はAにつき恐喝の事実で起訴したが、弁護人による反対尋問を経て詐欺の事実ではないかとの考えを抱くに至っている。そこで、訴因変更の措置を取ることが可能ではないか。
⑴
ア 312条1項が「公訴事実の同一性」を要求する趣旨は、同一訴訟内における被告人に対する処罰関心の拡張を禁止する点にある。そこで、「公訴事実の同一性」は、かかる拡張と言えない場合、すなわち新旧訴因間に基本的事実関係の同一性がある場合に認められると解する。具体的には、新旧訴因の共通性・非両立性を基準に判断する。
イ 本件で、新訴因たる詐欺と旧訴因たる恐喝は、いずれも被害品はVの店の店内にある宝飾品であり、被害者はVである点で共通する。また、犯行現場もいずれもV店内であり、犯行日も一致する。よって、新旧訴因間に事実的共通性が認められる。そして、同一人を被害者とする同一物の恐喝と詐欺は両立し得ない。
よって、基本的事実関係の同一性が認められる。
ウ したがって、「公訴事実の同一性」が認められる。
⑵ もっとも、本件では争点が絞られ、公判前整理手続(316条の2以下)に付されて公判審理が進められている。そこで、訴因変更の時的限界として許されないのではないか。
ア 確かに、時的限界につき明文はない。しかし、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うという公判前整理手続の制度趣旨を重視すべきである。そこで、同手続終了後の訴因変更請求は、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うという趣旨を没却する場合には許されないと解する。
イ 本件で、確かに、争点はAがVから宝飾品を任意に譲渡されたかという恐喝行為と交付行為の因果関係の有無に絞られており、公判前整理手続に付され公判審理が進められている。また、弁護人の反対尋問も行われ、恐喝事件であることを前提に審理が進行している。しかし、恐喝の事実と詐欺の事実について証拠は共通し、追加の証拠調べは不要である。また、弁護人や被告人の最終陳述(293条2項)を終えて結審段階にまで進行しているとはいえない。とすれば、本問の段階で訴因変更請求しても、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うという趣旨を没却するとは言えない。
ウ したがって、本件で公判前整理手続終了後の訴因変更請求は許される。
2. 以上より、訴因変更請求の措置をとることが可能である。
以上