11/22/2024
司法試験合格者に受験の体験談を聞く本連載・令和6年ver。
第2回は、中央大学から中央ローに入学。授業の予習レジュメ作成のためなどに300冊以上の法律書をiPadに入れて勉強し、3年次に在学中受験で一発合格した、山下竜之介さんです。
(ライター:サカモト/The Law School Timesディレクター)
山下竜之介(やました・りゅうのすけ)さん 令和6年度司法試験合格
2023年3月中央大学法学部法律学科を早期卒業し(5年一貫型)、同年4月中央大学専門職大学院法務研究科法務専攻専門職学位課程(既修者コース)入学、2025年3月修了見込み
✅独学で在学中一発合格
✅基本書を300冊読破してレジュメを作成
✅直前期はリラックスを重視
合格発表の受け止め
法曹を志したきっかけ
司法試験の勉強法
直前期の過ごし方
ホテル滞在について
中央ロースクールについて
司法試験を受験する人へのメッセージ
ーーまずは、合格おめでとうございます。合格した感想を教えてください
ありがとうございます。まずは、ほっとしたというのが正直な感想です。喜びよりも、安心の方が大きいです。
ーー中央ロースクールは、昨年に続き多くの合格者を輩出しましたね
そうですね。我々の中では、今年は去年よりも多く、全員の合格を目指してやっていたので、全員合格とはいかなかったことが残念です。ただ、私の代でも、しっかりとたくさんの合格者を出せたというのは、喜ばしく思っています。
ーー山下さんが法曹を志した時期や経緯を教えてください
私が法曹を志したのは、中学2年生の時です。一番大きいきっかけは小学校3年生の時の担任の先生に「あなたは弁護士が向いている。弁護士になりなさい。」と言われたことです。
もともと小中と野球をやっていて、体格がそれなりに大きかったこともあり、プロ野球選手になろうと思っていましたが、成長速度に骨や筋肉が悲鳴を上げ、怪我が絶えなかったので、プロスポーツは難しいと思ったのもきっかけの一つです。
中学2年生の時は弁護士になりたいと思っていたのですが、中学3年生の時からは、テレビドラマ「HERO」がきっかけで、検察官になりたいと思うようになりました。そこからはずっと検察官になりたいと思っています。
ーー司法試験を受験されての感想を教えてください
試験は中日を除いて4日間ありますが、やはり長いと思いました。
特に初日と2日目は、ほとんどインターバルがなく、初日に選択科目、憲法、行政法をやって、一夜明けたらすぐに民法、商法、民事訴訟法と続いていきます。私は初日から流れにのって、特に憲法、行政法で最高のパフォーマンスができたので、2日目もその流れに乗った勢いで受けることができました。
中日を挟んでからの、刑法、刑事訴訟法、最終日の短答は、インターバルが長めに空いたので、割とリラックスして受けることができました。
受験前から当日の作戦を立てていたのですが、作戦通りかそれ以上にうまく受験できたと思います。
運にも恵まれた試験でした。
最終科目の刑法短答で、3問を残して、残り1分という絶体絶命のピンチに。このようなケースでは、問題を見ず適当にマークするという作戦だったので、問題文や選択肢を1文字も見ないまま適当にマーク。その結果、3問とも正解でした。
ーー運気をアップする秘訣は?
まずは道端や電車の中、ロースクールの中に落ちているゴミ拾いですね。
あとは人助けです。
司法試験最終日の短答式試験開始前、私の隣の席の方が、消しゴムを出し忘れていました。もちろん話しかけるような関係ではないのですが、なんとか気づいてもらいたいと思って、自分の消しゴム5個を、1分おきぐらいにその方に見えるように並べていきました。
3個目を置いた時点で、気づいてもらえて、無事ご自身の消しゴムを机上に出しており一安心。
運ってオカルトみたいな気もしますし、運が良いから、試験がうまくいったという因果関係を証明することはできないと思います。本当に運があるのかもよくわかりませんし。しかし自分は運が良いと思えれば、厳しい局面に陥っても、立て直せると思います。
運稼ぎもがんばってほしいです。
ーー試験当日の作戦とは
試験がどのように展開していくのかわからない中で、もしダメダメで落ち込んでしまったり、慌ててしまった場合でも切り替えるための策を、A4両面で用意していました。
核となる作戦は、「強気で一か八かフルスイング。後は野となれ山となれ」です。司法試験本番は、4日間の短期決戦ですが、極度のプレッシャーの中、一日に何時間も答案作成をしなければなりません。弱気になったり、置きにいくような解答をすれば、合格することはないと思っていました。
ただ、常にフルスイングをするわけではありません。得意科目の行政法や民事訴訟法、憲法では、とにかく点を稼げるよう、ひたすらホームランだけを狙いました。これに対しあまり得意意識のない民法や商法、刑事訴訟法では、本当に自信があるときだけフルスイングするようにしましたし、苦手科目の刑法では「最下層の上位」つまり合格者の中で一番下のランクでも構わないという姿勢でやっていました。苦手科目でがむしゃらにフルスイングしても、撃沈する可能性が高いと思ったからです。
作戦シート中の「速攻」というのは、答案構成をせず直ちに起案に取り掛かることを意味しています。本番でも「速攻」を行っており、民事訴訟法は試験開始後50秒、行政法は試験開始後2分で起案を始めています。
「投手コーチ」というのは自分を客観的に見るもう1人の自分です。試験中に手が止まってしまったり、迷ってしまったときに、一回手を止めて、自分の中にいる、自分を冷静かつ客観的に見ている自分がやってきて、「速攻がうまくいってるから、ここは時間使ってでも丁寧に論証しよう」とか「時間がギリギリだし、この後得意論点が待ってるから、ここは早めに撤退しよう」とか「ここが勝負所だから、がんばれ!」とかアドバイスをするというものです。
このときは、完全にペンを置いて、気持ちを切り替えることができるので、やってよかったと思います。ただ1分程度はペンを置いて、問題から離れることになってしまうので、回数制限を設けていました。その回数は、得意科目ほど少なく、苦手科目ほど多くなっています。
ーー司法試験の勉強法について教えてください
私は、300冊以上の法律書を読みました。大量の法律書を読むというのは試験対策的にはタブー視されていますが、私の性格上、1冊では飽きてしまいますし、気に入らない表現は嫌だったので、試験対策の定石通り1冊を丁寧にというのは向いていませんでした。
山下さんが使っていた基本書リスト(Exelファイルが開きます)
また、ロースクールの予習で「答弁書」という書類を作成していたのですが、これもかなり勉強になりました。
「答弁書」は、ロースクールの予習課題に対する自作の解答集です。一つ一つの設問すべてに、基本書と呼ばれる法律書や、コンメンタール(逐条解説書)、時には法律雑誌や論文集などを駆使して、自分の言葉でわかりやすく説明するという勉強をしていました。
この「答弁書」を書く中で、本当にたくさんの法律書に触れることができ、また自分の考えをまとめて説明してきましたので、知識はもちろん、法的思考力や法律文章の作成能力もかなり向上しました。
ーー勉強になりそうですが、時間もかかりそうな勉強法ですね
たくさんの授業がある中で、迅速かつ正確に作成しなければならないので本当に大変でした。
ですので、みなさんにおすすめできる勉強法ではありません。
司法試験的にはオーバースペックの法律書をかなり読むことになりますし、そもそも速読する能力や法律書に記載された内容をインプットする能力、それを脳内で整理する能力、他人に伝えられるように文章でまとめる能力など様々な能力が求められるため、そうした能力に自信がある人でなければ時間を浪費して終わる可能性が高いと思います。
あとは、主要な基本書やコンメンタールが、OCRを通した形でiPadに300冊ほど入っているので、本を探す手間がなく、検索して簡単に読みたい本を読める環境にあったことが大きいと思います。
【関連記事】「iPad勉強法」
ーーおすすめの勉強法は?
誰にとってもベストな理想の勉強法というものはないと思います。
この合格体験記をはじめ、巷では様々な勉強法が紹介されていますが、どれもその人にとってベストだったというだけで、必ずしもみなさんにとってベストとは限りません。私のように、たくさんの法律書を参照する勉強法で実力が伸びる人もいれば、それでは時間を浪費してしまうだけの人もいると思います。
そのため、全員におすすめの勉強法はないのですが、司法試験の勉強の一般論で言えば、条文、判例、定義を大切にしてほしいと思います。
ーー予備校を利用していないとのことですが、それでも合格できた秘訣は?
中央大学法学部在籍中に、「炎の塔」という中央大学の中に設置された司法試験受験団体に参加していたので、予備校のような基礎講座や答練は学部時代にやっていました。ただロースクールに入学してからは、そのようなものは一切利用していません。論証集や論証パターンと呼ばれるものも、市販されているものを持ってはいましたがあまり利用しませんでした。
予備校を利用するかはともかく、司法試験に合格するために必要な勉強は、次のものがあると思います。
まずは、基礎講座などでその法律科目の全体像を把握する、次に、論点について判例や学説の考えを理解する、最後に、答案で表現できるようになるという勉強です。この勉強を、誰でも効率よくできるのが予備校の長所だと思います。
いずれの段階も予備校を利用しなければできないわけではなく、数多くの優れた法律書が市販されているので、それらを読みこなすことで、十分全体像を把握し、論点を理解することができると思います。
ただ、最後の答案で表現というのは、1人では難しく、答案を読んでもらう人が必要だと思うので、添削してもらえる環境は必要です。私が所属した中央ロースクールでは、「一群特講」と呼ばれる即日起案の授業が、2年次後期に毎週ありました。この授業は、まず1時間で起案をし、その後、問題を作成した教員(主に研究者教員)がその場で解説。さらに数週間後に弁護士や作問・解説担当の教員などが添削して、学生に返却する、というものです。添削済みの答案には多くのコメントが入っており、自分の答案を客観的にみてもらうよい機会でした。
また、予備試験に合格した優秀な友人に答案を見てもらう機会にも恵まれたので、予備校を利用せずに合格することができたのだと思います。
ーー短答式試験についてはいかがですか?
一応去年の11月頃(司法試験を受ける8か月前)から、辰已法律研究所が出版している『短答過去問パーフェクト』を購入して取り組んでいました。
短答式試験は論文1科目分の点数があり重要なのですが、私は短答が好きではなく、論文に大きな自信があったので、短答式は予選程度に考えていました。
結局、試験1か月前の6月頃に、本当に短答が嫌でしょうがなくなり、短答の勉強をやめてしまいました。パーフェクトは半周で司法試験本番に突入することになってしまったので、そこは反省点の一つです。
短答が嫌になったタイミングで、短答の勉強は完全にやめてしまおうかとも思いましたが、短答式試験の合格に必要な成績は確保しなければなりません。そこで、本当に短答の勉強をやめて大丈夫かチェックしました。
その方法は、3年分の過去問を憲法・民法・刑法全部解いて、すべての年度で110点を超えられることを確認しました。110点あれば、論文で稼いだ貯金を取り崩せば合格ラインに達することができるからです。結果、110点を超えていたので、安心して短答の勉強をやめることができました。
本番は、憲法が31点、民法が44点、刑法が41点の合計116点でした。
ーー直前期はどのように過ごしていたのか教えてください
試験本番2か月前は、論文も短答もがんばっていました。知識を入れるというよりは、論文であれば起案、短答であれば過去問を解くというような実戦形式が多かったです。
試験本番1か月前からは、先ほど申し上げたように論文に専念していました。2時間みっちりのフル起案を数多くして、実戦に備えていました。
また、司法試験本番のトラブル対策として、第1問と第2問で解答用紙が分かれている選択科目で解答用紙を取り違えてしまった場合の対処や、試験中お腹が痛くなってしまった場合を想定して、2時間のフル起案中に5分ほど離席し、座席に戻った後、即座に起案を再開できるようにする訓練を重点的に行っていました。
本当の直前期(1~2週間前)からは、リラックスに専念していました。私は、長期記憶は強いのですが短期記憶は弱かったですし、性格的にも気分が良ければ、調子良く、最高のパフォーマンスができるタイプなので、直前期の詰め込みのような勉強は一切していません。
家のそばに海があるので砂浜を歩いたり、山の中を歌いながら歩きまわったり、長風呂をしたりしていました。多少は勉強しましたが、自分の性格的に追い詰められて疲れた状態で試験に向かっても、良いパフォーマンスができないことは明らかでしたので、勉強ではなくリラックス中心の生活でした。直前期に、あまりに勉強せずにリラックスしていたので、私の友人からは、今年の司法試験をあきらめたのではないかと心配されていました(笑)。
ーーおすすめの直前期の過ごし方は?
よほど本番に強く、自信があるタイプでなければ、直前期もきちんと勉強した方がいいと思います。特に短期記憶に自信がある人は、最後の詰め込みチャンスなので、しっかり勉強してください。試験は5日間で終わりますし、中日を除けば4日間で終わります。そのぐらいの期間であれば、睡眠不足を引きずってしまっても、アドレナリンとカフェインで、大半の人がなんとかなると思います。もちろん睡眠不足で、ものすごくパフォーマンスが低下してしまう人もいますので、自分に合った過ごし方をするのが一番だと思います。
ーー司法試験の期間中のホテル滞在について教えてください
東京都の浜松町会場だったので、自宅からだと1時間ぐらいかかります。自宅から通うのも不可能ではありませんでしたが、遅延が怖く、落ち着いて試験を受けられないのが嫌だったので、ホテル宿泊を選択しました。
ホテルに泊まる場合、司法試験の前日からという人が、おそらく多いと思います。ただ私は、移動日の翌日に試験を受けるというバタバタした感じが嫌だったのと、前日は落ち着いて過ごしたかったので、前々日の月曜日から宿泊していました。前日を、移動ではなくリラックスと最終確認に充てられたのは本当に大きかったと思います。
ーーホテル選びの基準などはありましたか?
まずは、司法試験会場の浜松町から近いというのが大前提です。結局田町駅のそばにしましたが、山手線で1駅ですし、最悪歩いても30分程度で着きます。次に大事なのが、食事(朝食)、トイレとお風呂が別なこと(ユニットバスではないこと)、床面積がそれなりに広いことです。
ーー中央ローでの生活はいかがでしたか?
本当に楽しい2年弱を過ごすことができていますし、もうすぐ卒業しなければならないのが非常にさみしいです。もちろん辛い時、大変な時もありましたが、多くの友人に恵まれ、おそらく一生付き合っていくことになるような親友がたくさんできたのは、本当に嬉しく思っています。
友人関係については、本当に一生の付き合いをしていくことになるような、濃い人間関係を築くことができました。司法試験の受験が終わった2024年の7月までは、あまり遊ぶ余裕がなく、勉強だけをしていた生活でしたが、司法試験が終わってからは旅行や食事などたくさん遊ぶことができました。
中央ローには沖縄で行う授業があるのですが、その授業プラス観光で1週間、沖縄旅行に行くことができました。人生で最も素晴らしい旅行でした
ーーロースクールの授業はいかがでしたか
学界や実務で名を馳せた、一流の先生方を評価することになり恐縮なのですが、基本的事項から丁寧に説明してくださりますし、研究者教員であれば最先端の学界の動向、実務家教員であればテキストには載らない実践知も数多くご教示いただきました。司法試験に直結する解説をしてくださりますし、答案にどのように表現すれば、評価されるかというのも教えていただけたので、濃密な授業でした。
また私は現在「研究特論」という2万字以上の論文を書く授業を履修しており、「行政庁がした事実認定に対する行政裁量」というテーマで論文を執筆しています。
ーーロースクールで研究というのは珍しいですね
そうですね。私の周りに何人か同じ授業で論文を執筆中の学生がいます。全員実務家志望で研究者になるというわけではないようですが、司法試験の勉強では幅広く勉強していたところ、論文を書くとなると、学界の最先端まで深堀りしていくことになるので、司法試験とは異なった法律家としての能力が鍛えられていると思います。また、論文という形で、修了の記念作品のようになるのも嬉しいです。
ーー最後に、来年度以降司法試験を受験する人に向けてメッセージをお願いします
まずは、必死に勉強してください。死ぬ気になって勉強してください。特に規模の大きなロースクールでは、それなりの人数受かっていますし、在学中受験の合格率はそこそこ高いので、自分も受かるのではないかという期待を持つ気持ちも、よくわかります。実際、私の先輩方が昨年素晴らしい合格実績を挙げられ、私も大きなパワーをもらいました。
しかし合格率が高いとはいえ、少なくとも2~4割は落ちる試験です。決してやさしい試験ではありません。あなたが合格したいなら、自分が出せる全力を尽くすことです。中途半端に中途半端を重ねても、中途半端な成果しか得られないと思いますし、その中途半端は将来の自分の首を絞めることになると思います。
司法試験までは、今(インタビューは2024年11月7日)から8か月間あります。まだまだ挽回が効く時期です。直前期は誰でも頑張るので、年内、あるいは在学中受験をする方々が期末試験と重なり司法試験に専念できない2月までに全力を出せていれば、大きな差をつけられると思います。
また、実践的なアドバイスとしては、短答を頑張ってください。論文試験1科目と同じ配点の短答は、論文と異なり、点数を調整されることなくそのまま合否判定の点になります。実際、短答の点数が高ければ、合格確率も上がるというデータがあります。
論文は、本番で蓋を開けてみて、自分が不得意な論点が出題された場合に思うように点が取れないこともありますが、短答式はたくさんの問題が出題されますので、全部が全部不得意分野ということはないと思います。
特に司法試験の短答式は、憲法はともかく、民法、刑法については論文に直結する知識を得ることもできますので、短答の勉強は一石二鳥だと思います。
司法試験に合格すると空の色が変わるということはありませんが、本当にたくさんの人たちに喜んでもらえます。また、みなさんそれぞれ実現したい夢があって法曹を志したのだと思いますが、その夢を実現する第一歩が司法試験合格のはずです。勉強は常に楽しいわけではなく、辛い日々を乗り越えなければなりません。しかし長い長い夜もいつかは明けますし、降り続いた雨も止まないことはありません。7月に受験してから11月の合格発表まで、長い時間が空きますが、とりあえず来年の夏休みは、あなたの大切なパートナーや友人と大はしゃぎできます。
司法試験受験後には楽しい日々が待ってますので、今はただ、全力で、がむしゃらにがんばってください。